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ISASニュース

観測ロケットS-520-26号機の打上げ終了

No.371(2012年2月)掲載

高度100〜300kmの熱圏領域での中性大気とプラズマ(電離大気)の結合過程(エネルギーのやりとり)の解明を目的とした、観測ロケットS-520-26号機実験が1月に行われました。打上げに至るまでの状況について、簡単にご紹介します。

今回の実験の特色は、何といってもロケットから放出するリチウム蒸気を地上に設置したカメラで連続撮影することにありました。リチウム蒸気は太陽光を受けると赤色の散乱光を発し、また、ロケットから放出されたリチウムは高度100km付近では周辺の風になじみ同じ速度で動くのです。だから、このリチウムの発光領域の動く速さと方向を観測すれば、この領域に吹いている風の速度を知ることができます。一方では、ロケットに搭載した測定器によってプラズマの運動速度を測って、データの比較から大気とプラズマの結合過程についての議論をしようというものです。本実験の第1弾と位置付けられる2007年9月に打ち上げられたS-520-23号機実験では、リチウム発光が西日本の広い範囲で見え、「宇宙花火」として大きな反響を呼びました。

地上からカメラでリチウム発光を撮影するため、当然のことながら空に雲があってはいけません。それも3次元的な風速を正確に求めるために内之浦、奄美大島、高知県宿毛市の3地点から撮影を行うことにしたので、打上げ条件に「3つの地上観測点が晴れ」という厳しい項目が加わりました。12月下旬の打上げウインドウに入って、内之浦、宿毛の2地点では晴天が見られていたのですが、奄美大島は曇天続き。結局打上げのタイムスケジュールに入った12月27日も天候条件が成立せず、打上げは延期。新年に持ち越しとなってしまったのでした。

年が明けて、実験班は1月4日から作業を再開し着々と準備を進めていきました。しかし、奄美大島の天候は依然として回復せず、地上観測班はこの地での観測続行を諦め、より晴天率の高い高知県室戸への移動を7日に決断したのでした。次の打上げチャンスである11日早朝までに、撤収から新観測地手配、移動、測定器運搬、準備までを3日間で完遂した地上観測班の機動力には大いに目を見張るものがありました。これは、北海道大学の渡部重十先生、高知工科大学の山本真行先生の強いリーダーシップのたまものです。

観測地点の移動が功を奏し、天候条件が整った12日早朝、S-520-26号機は暁の空へと飛び立ちました。リチウム放出時刻が予定よりも少し遅れ、発光領域が低めであったために肉眼ではほぼ見えず、「宇宙花火」を期待してカメラを構えていた方々には残念な結果となりましたが、地上観測班は幅2nmのバンドパスフィルタを用いて連続画像を取得することができました。

最後となりましたが、実験の実施に当たりご協力いただいた関係各位にこの場を借りて心よりお礼を申し上げます。

(阿部琢美)

内之浦観測点において1月12日6時16分に撮影されたリチウム発光画像