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ISASニュース

「IKAROS」逆スピン運用に成功

No.370(2012年1月)掲載

2010年5月に打ち上げられた小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」は、同年12月の金星フライバイを経て後期運用に入り、順調に航海を続けています。この後期運用の中で、展張状態の膜面のより正確な力学モデルを構築することを目的とし、2011年6月から「低スピン運用」、10月から「逆スピン運用」を行いました。

低スピン運用では、膜展開完了後1rpm(毎分1回転)以上を維持してきたスピンレートを徐々に下げながら、モニタカメラによる膜面の撮影を行いました。この結果、遠心力が弱くなる0.055rpmという非常に低いスピンレートにおいても、太陽光圧に抗し膜がほとんどたわまないことが確認されました。それにより、予想していたよりも膜面の剛性が高いことが分かってきました。

この結果を受け、さらに冒険的なミッションに挑んだのが逆スピン運用です。

「IKAROS」は、スピン剛性により姿勢を安定させ、遠心力によって膜面の展張形状を保つため、ある程度回転させておく必要があります。低スピン運用においても、0.055rpmでは姿勢が不安定となったため、その後はスラスタにより0.2rpm以上を維持するようにしていました。このため、一時的に回転を止める逆スピン運用は大きなリスクを伴っていました。しかし、低スピン運用で得たデータから、膜面の剛性を見直した上でシミュレーションを重ねた結果、スラスタを使って短時間で回転方向を逆転させれば、安全に逆スピン状態に移行できると判断しました。

そして10月18日、緊張の中で逆スピン運用が実行されました。初期スピンレート0.15rpmの状態から、約20分間スラスタを断続的に噴射させ、マイナス0.25rpmを目指して一気に回転速度を変えていきます。この間、懸念された姿勢の乱れなどによる通信途絶や電力喪失もなく、見事目標通りの逆スピン状態に移行することができました。

その後、噴射中の膜面の画像や逆スピン成立後の2ヶ月以上にもわたる姿勢遷移データの取得に成功しました。これらのデータは、積極的にスピンレートを変化させたことによって初めて得られた貴重なものであり、宇宙膜面構造物の開発に重要な知見を与えるだけでなく、スピン型ソーラーセイルの可能性を大きく広げるものとなりました。

(白澤洋次)

0.055rpmでの膜面のフライト画像

膜面剛性が低いモデルにより予測された0.055rpmでの膜面形状。モニタカメラ視野イメージ(上)と全体(下)。