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ISASニュース

JAXA相模原チャンネル、皆既月食のネット中継に68万人

No.370(2012年1月)掲載

好条件が重なった2011年12月10日の皆既月食、皆さんはどちらでご覧になられたでしょうか。今回は、日本全国で食の全過程を鑑賞できる絶好の月食。天気も期待できたので、私は当初、寝袋を持って相模原の里山に行くつもりでした。しかし、子どもたちを連れていくには寝袋が足りない(嫁さんは里帰りする)ので、どうせ見るのなら相模原キャンパスでネット中継でもしようかと思い立ちました。

これまで、相模原キャンパスからのネット中継といえば「宇宙教育テレビ」でした。宇宙教育センターは、研究・管理棟1階展示ロビーの一角にスタジオまで持っています(所内でもあまり知られていません)。宇宙教育センターの協力のもと、このスタジオ・機材を宇宙研の広報にも積極的に活用しようと、11月からいろいろと計画を練っていました。そして生まれたのが「JAXA相模原チャンネル」です。これは、ウェブでストリーミング放送を行うための番組名で、USTREAMに開設しました(新しいウィンドウが開きます http://www.ustream.tv/channel/jaxa相模原チャンネル)。普段は、ペンシルロケットから始まる宇宙研の全映像作品が24時間配信されています。これだけでも100以上の作品がありますから、十分見応えがあります。

最近では、このようなネット中継は非常に簡単にできます。スマートフォン1台あれば中継可能だと聞き、これはぜひ活用するべきだと思い立ったわけです。しかし始めた途端、複数のカメラの扱い、音声の収集、ネット回線の確保などを考えるとシステムはすぐ複雑になり、安定した配信を行うための条件は簡単に失われることを学びました。また、番組を行うには、曲がりなりにも台本が必要です。JAXA相模原チャンネルを開設したことで、段違いに忙しくなりました。

そんな試行錯誤の中で、皆既月食中継に踏み切りました。当日の昼間には、相模原市立博物館で阪本成一教授による「皆既月食直前ガイド」講演会があり、その中継も行いました。博物館ではドームの望遠鏡にビデオカメラを設置すると聞いたので、この映像も合わせて配信することにしました。

本番のスタッフは、宇宙教育センターの宇津巻竜也氏と、月関係の研究者として宇宙プラズマ研究系の黒澤耕介氏、そして私です。また、赤外・サブミリ波天文学研究系の大学院生、山下拓時氏、有松亘氏にも赤道儀の提供と運用を行っていただきました。当日、すでに暗くなっているのに配信ができるかどうか分からないという綱渡り運用で、開始予定時刻21時40分を数分過ぎた時点でやっと中継を開始できました。

外に出れば観望できる月食のネット中継を見る人が果たしているのか、と疑心暗鬼で始めた中継ですが、結果的に、延べ68万人以上の方々にご視聴いただきました。これほどの視聴者数はまったくの予想外でした。次々に流れるコメントの内容を見るに、どうも寒い中、長時間外にいられる気合いのある人は少数で、この中継を見ながら頃合いを見て外に見に行く、という方が多かったようです。冬場ならではの効果があったと思います。USTREAMでの月食中継は49番組ありましたが、何と視聴者数でトップ。「皆既月食直前ガイド」講演会の録画も9万人以上の視聴がありました。

放送中は、ウサギの人形が大活躍でした。マイクがハンディーカメラ付属のみ(セッティングに不慣れなため)、照明は私のヘッドランプという状況でしたので、カメラのそばでウサギを通して解説・コメントを行っていたのです。思いのほか、これが好評でした。ウサギ人気に刺激を受けて、放送終了間際には、相模原市立博物館のキャラクター、タヌキの“さがぽん”も博物館から駆け付けてくれました。

相模原キャンパスでは、今回の中継とは別に、固体惑星科学研究系の今枝隆之介氏を中心にした大学院生たちが、赤外線カメラを用いて月面の温度変化の観測をしていました。小惑星探査機「はやぶさ2」への応用も視野に入れた観測とのことで、宇宙研らしい取り組みが中継の裏でなされていたことも付け加えておきます。次回は、こうした研究所らしい取り組みと併せて中継できればと思います。

(高木俊暢)

JAXA相模原チャンネルの皆既月食ネット中継の様子