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ISASニュース

「あかり」の運用終了

No.369(2011年12月)掲載

赤外線天文衛星「あかり」は、2011年11月24日をもって、軌道上での運用を終了しました。「あかり」は、液体ヘリウムと冷凍機によって極低温に冷却された望遠鏡を使って、宇宙からのかすかな赤外線を捉えるための衛星で、2006年2月22日に内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられました。液体ヘリウムでの冷却中に全天サーベイに成功し、ヘリウムが蒸発してなくなった後も冷凍機だけを使って一部の観測を続けました。「あかり」の観測期間は計4年以上にわたりましたが、2010年には設計寿命を超えて働いた冷凍機に劣化が見られ、観測を中断して冷却性能回復を目指しました。しかし2011年5月に電源に異常が発生し、観測再開を断念することとなりました。そして11月24日を最後に地上との通信を停止し、5年9ヶ月間に及ぶ運用を終えました。「あかり」は今、地球大気へ突入して生涯を終える日を静かに待っています。

観測運用中の「あかり」は、膨大なデータを地上に届けてくれました。そこからは130万個の天体情報を収めた赤外線天体カタログがつくられ、世界の研究者に公開されています。また100億年前までさかのぼる宇宙の星形成活動の歴史、惑星の原料ともなる宇宙の塵が終末期の星のまわりでつくられる様子、さらには小惑星や彗星など太陽系内天体の情報など、「あかり」のデータは赤外線でしか見えないさまざまな宇宙の姿を捉えていました。軌道運用が終了した後もデータの解析と、それを用いた研究は続いています。赤外線天体カタログの増補や、宇宙の赤外線画像の新たな公開なども、2012年に予定されています。全天の赤外線画像はプラネタリウムでも投影できるようにする予定なので、見ていただく機会があるかもしれません。「あかり」が送ってくれたデータを、研究者だけでなく私たちみんなの宝として遺しておきたいと思います。私たちにデータを渡して仕事を終えた「あかり」は、地球を回りながら今も一人で星空を見つめているのでしょうか。

(村上 浩)