宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASニュース > 連載の内容 > ISAS事情

ISASニュース

「あかつき」の新たなる旅立ち

No.369(2011年12月)掲載

2011年11月、金星探査機「あかつき」は新たなスタートを切りました。姿勢制御用の4基の小さなエンジン(RCS)を3回にわたって長期連続噴射して約240m/sの速度変更を行い、2015年に金星に会合する軌道に入ったのです。

2010年12月に実施した金星周回軌道投入運用では主エンジン(OME)が途中で停止し、「あかつき」は金星の横を素通りしてしまいました。このときは燃料を押し出すための高圧ガスのバルブの動作不良が引き金となり、主エンジンが異常な高温を経て破損したと推定されています。「あかつき」はその後太陽のまわりを周回しており、燃料の大半が残っているため、OMEに再度点火して金星を目指すことが検討されました。問題はOMEが使用に耐える状態かどうかです。かくして2011年9月に試験噴射を行いましたが、もはや必要な推進力は得られないことが分かりました。

残された手段はRCSによる軌道制御です。OMEが燃料と酸化剤を混合燃焼させて推力を得る2液式エンジンであるのに対し、RCSは燃料を触媒反応で分解させて推力を得る1液式エンジンです。RCSしか使わないとすると酸化剤は無駄な重量であり、酸化剤を抱えたままでは金星で条件の良い軌道に投入することが難しいことが分かりました。そこで10月にもともと予定になかった酸化剤排出を行い、65kgの軽量化に成功しました。

11月1日、いよいよRCSによる第1回目の軌道制御が始まりました。10分間に及ぶ長期連続噴射は初めてのことです。予期せぬ事態に備えて緊張して臨みましたが、計画通りの安定した加速が得られました。続いて11月10日と21日にも計画通りに軌道制御を行いました。

2015年に金星周回軌道に入るのか、2015年には金星でフライバイして時間を置いてからあらためて周回軌道に入るのか、今後検討していくことになります。ともあれ、予定よりずいぶん遅くはなりましたが、「あかつき」が金星に到達するめどが立ちました。あらためてスタートラインに立った気持ちで、観測計画の再構築に取り掛かっています。

(今村 剛)

「あかつき」と金星と地球の軌道。座標の単位は億km。(作成:廣瀬史子)