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ISASニュース

観測ロケットS-310-40号機 噛合せ

No.369(2011年12月)掲載

夜になると、それまで聞こえなかった遠くのラジオ放送局の音声が聞こえるようになることを、経験された方は多いと思います。これは、AMラジオ放送に使用される中波帯電波が、昼間は電離圏のD層(高度約60〜100km)で吸収されて遠距離には伝搬できないのに対し、夜間はD層が衰退してより高高度に達した電波がE層で反射され遠距離伝搬が可能になるという理由によるものです。しかし、夜間に聞こえていた遠くからの放送が途切れ、しばらく受信できない状況に陥る場合があることが、最近の観測により分かってきました。このような現象は、夜間に電離圏下部に電波の散乱や吸収を引き起こす異常な密度構造が発生して遠距離伝搬が妨げられたためと考えられています。

この現象も含めて電離圏下部では、滑らかな電子密度構造が崩れたり、微小スケールの擾乱が出現したり、さまざまな現象が発生することが知られています。このような不思議な電子密度構造を観測するために、観測ロケットS-310-40号機実験が計画されました。今回の実験の特徴は、地上の4地点から発信された中波帯・長波帯電波を観測ロケット上で受信して電子密度分布を推定し、ロケット搭載のプローブや磁力計のデータと組み合わせて立体的な電子密度構造を探ろうというものです。

この観測ロケットの噛合せが、11月に相模原キャンパスの構造機能試験棟を中心に行われました。写真は、振動試験前に撮影したひとこまです。通常、観測ロケット頭胴部は銀色や黒色の四角い箱など、飾り気のないものが多いのですが、今号機には赤と青の三角帽子のようなものが取り付けられました。これは12月の打上げに合わせてクリスマスを意識したものではなく、電波の受信に必要なコイルの巻き付け用治具です。みんなで赤がよいだの、緑だのと言い合ったのですが、最終的に赤と青に落ち着きました(色は観測には関係ないので、あしからず)。残念ながら、打上げ時はノーズコーンをかぶるため華やかな先端部をお見せすることはできませんが、はるか上空に達した後に勇姿を現すことでしょう。見栄えに負けない立派なデータが取得されるものと期待しています。

(阿部琢美)

S-310-40号機の頭胴部。先端部の赤烏帽子が電波受信用アンテナの治具。