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ISASニュース

大気球で全方位ハイビジョン映像を撮影

No.368(2011年11月)掲載

5月25日から6月8日にかけて北海道大樹町で行われた平成23年度第一次気球実験には、ちょっと珍しい人たちが参加していました。NHKの科学班の方々です。取材ではなく、フライト実験の搭載機器開発者としてです。彼らが搭載するのは、市販のカメラを改造してつくったハイビジョンカメラが10台。そのカメラがあらゆる方向を向いてゴンドラに取り付けられます。目的は、上下左右すべてにシームレスな合成映像を作成することです。この映像は、9月18日に『宇宙の渚』という番組で公開されました。

番組中でも紹介されていましたが、フライトにこぎ着けるまでの道は非常に険しいものでした。多くの機器開発を手掛けてきた精鋭も、宇宙での実験は初めてです。開発のペースがなかなかつかめないようで、スケジュール調整一つとっても、なかなか我々と話がかみ合いません。かなり深刻なトラブルもありました。私は半ば、もう搭載は無理であろうと思っていたほどです。フライトにこぎ着けたのは彼らの努力のたまものといえるでしょう。

6月8日、際どい天候でしたが、気球は無事に放球され、ゴンドラは無事に回収されました。映像データの入った記録メディアを取り出し、再生に成功したときには大きな歓声が上がりました。いくつもの困難をくぐり抜け、ようやく手にした映像です。しかし、ディレクターの方は、ぼそっと言いました。「霧が邪魔だなあ……」。確かに、霧のせいで地上は真っ白、映像的にはあまりいい条件ではなかったかもしれません。やはりシビアな世界だなあ、と思わされました。

(田村啓輔)

濃い霧の中、放球の時を待つ