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ISASニュース

イプシロンロケット上段サブサイズモータM-34SIM-3地上燃焼試験

No.368(2011年11月)掲載

運用性、即応性に優れ、国際的なコスト競争力を持つ小型衛星打上げ用の次期固体ロケット、イプシロンの開発が2010年度に始まりました。イプシロンロケットは、革新的技術による運用性の向上や各コンポーネントの抜本的低廉化などによって打上げコストを大幅に下げると同時に、機体サブシステムの軽量化や軌道投入精度の向上による高性能化を目指します。

その開発では、最終的な姿を目指しながら近い将来の小型衛星ミッションの要求に対応するため、二段階の開発方式を取っています。第一段階では、従来技術を最大限に活用して小型衛星ミッションと革新的運用システムの実証を早期に実現するイプシロン(E-X)を開発します。第二段階では、実証済みの運用技術をさらに進化させ、先進技術研究の成果に基づいてさらなる低コスト化、高性能化を図った次世代型イプシロン(E-I)を完成させる計画です。E-Iの試験機は2017年度の打上げを目標としており、そこに向けた搭載電子機器系、構造系、推進系各分野の先進的な技術研究が宇宙輸送ミッション本部と宇宙科学研究所で連携して進められているところです。

以上の背景からプロジェクトチームでは、E-Xの上段(第2段、第3段)に、M-V型ロケット5号機の第3段M-34bモータと第4段キックモータKM-V2をほぼそのままの姿で流用する計画を立てました。ただし、開発から10年以上が経過しているため、素材の入手先や素材そのものの変更あるいは最新技術の導入により、設計や製造工程を改良したいコンポーネントがあります。特にモータの燃焼室からノズルにかけての耐熱材と断熱材の一部については、実際の燃焼環境条件での機能確認が必要なため、小規模のサブサイズモータによる燃焼試験を行うことにしました。試験に使用するM-34SIM-3モータは、M-V上段モータ開発の初期に設計されたM-34SIM-1およびM-34SIM-2モータと同じく、M-34モータの1/4サイズのシミュレーションモータです。ノズル大気開放の条件で試験を行うため、ノズルの膨張比は小さくなっていますが、燃焼室の内面形状や推進薬グレインの形状は材料評価のために実機の条件を模擬できるよう工夫されています。

試験は、秋田県能代市の能代ロケット実験場において、9月30日午前10時30分点火で行われました。あいにくの雨でしたが、E-X開発における唯一の本格的地上燃焼試験として、報道7社に加えて能代南中学校の全校生徒約250名、そのほかの皆さんに対して実験班員による解説付きで公開し、久しぶりにとてもにぎやかな雰囲気に包まれました。試験の結果は良好で、今後の詳細なデータ検討を経て上段モータの設計に反映されることになります。

E-Xの主推進系に関わる地上燃焼試験はこれで終了ですが、次世代型のE-I完成までの約6年間には高空性能試験を含めた燃焼試験が複数回計画されることになるでしょう。今後、M-V時代の中心メンバーが次々と引退していく中で、固体推進系開発体制の再編にも取り組んでいく所存ですので、引き続き応援をよろしくお願いします。

最後に、今回の燃焼試験にご協力いただいた皆さまに深甚の謝意を表します。

(徳留真一郎)

イプシロンロケット上段サブサイズモータのセットアップ

地上燃焼試験が無事終了