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ISASニュース

平成23年度第二次気球実験

No.367(2011年10月)掲載

平成23年度第二次気球実験は、8月15日から連携協力拠点の大樹航空宇宙実験場において実施されました。準備を開始した15日は北海道太平洋東岸でも好天で、昨年同様に天候に恵まれるかと期待したのも束の間、翌日からは北海道にはないはずの梅雨空が続きました。さらに今年は多くの台風が真っすぐ北上したことからも分かるように、ジェット気流が日本上空に南下せず、高度15km程度までの風がそろって北寄りとなることが多く、短時間の気球飛翔でさえ実施できない日が続きました。

8月18日には、研究者の方々により敷居の低い大気球実験となるよう開発した新テレメトリコマンドシステムの飛翔性能試験の準備を整えたのですが、飛翔機会に恵まれないまま、水平飛翔する高度27km程度の高層風が季節変化のため実験実施に適さなくなってしまいました。

代わって、宇宙からの回収機においてよく用いられる形状であるアポロ型カプセルの遷音速域における動的不安定性について基礎的なデータを収集するとともに、それをリアクションコントロールジェットにより制御することを目指した小型実験用再突入システムの落下実験の準備を整え、8月30日午前4時40分に満膨張体積10万m3の気球を放球しました。午前7時すぎに高度37kmに到達した気球から投下されたアポロ型カプセルの供試体は、自由落下を利用して予定通りに飛行し、機体姿勢および運動に関わるデータをテレメトリで取得することに成功しました。残念ながら海上に緩降下後のカプセルは回収されませんでしたが、今後取得されたデータを解析することにより、基本的挙動の理解とともに動的不安定時における姿勢制御の理解を深めていく予定です。

9月14日には中間圏下部での「長時間その場観測」の実現を目指した超薄膜高高度気球の飛翔性能試験を実施しました。気球用フィルムとして世界で最も薄い、厚さ2.8μmのポリエチレンフィルムを用いて製作された満膨張体積8万m3の気球は、午前6時12分に実験場から放球されましたが、高度14.7kmに達した時点で浮力を失い緩降下を始めました。その後、気球は所定の降下速度に達せず、降下予定区域を逸脱しました。これらの不具合については原因を究明して今後の気球実験の開発・運用に役立てる所存です。

以上をもって9月15日に第二次気球実験を終了しました。本年度の実験実施にご協力いただいた関係各方面の方々のご尽力に深く感謝致します。

(吉田哲也)