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ISASニュース

平成23年度第一次気球実験

No.364(2011年7月)掲載

3月11日の東日本大震災で被災した岩手県大船渡市三陸町は、平成19年まで37年間にわたって日本の大気球実験を育んできた地です。400機以上の大気球が三陸大気球観測所から放球され、多くの理学観測、工学実証の気球実験が実施されてきました。観測所で実験に携わってくださっていた方に犠牲はなかったものの、お世話になっていた宿のいくつかは全半壊し、地元の知り合いの中には亡くなった方もいらっしゃいます。被災者の皆さまに心よりお見舞い申し上げ、また亡くなった方々のご冥福をお祈り致します。

震災による影響は第一次気球実験にも及び、大学の入構制限により実験準備が遅れ、また海上回収用船舶、支援航空機のスケジュールが震災対応のため見通し困難になるなど、一時は実施が危ぶまれましたが、予定していた一つの実験を第二次気球実験に延期して実験期間を短縮することで、5月25日から連携協力拠点大樹航空宇宙実験場において実施しました。

まず6月1日に、長時間飛翔が可能な飛翔体である、スーパープレッシャー気球とゼロプレッシャー気球を組み合わせたタンデム気球の研究の第一歩として、ゴム気球と体積10m3のスーパープレッシャー気球からなる超小型タンデム気球の飛翔性能試験を実施しました。午前1時23分に放球された気球は日の出を超えて飛翔し、低温の飛翔環境におけるスーパープレッシャー気球の耐圧性能を確認することはできなかったものの、日昇前後でのスーパープレッシャー気球の温度変化の計測により、昼夜のガス温度の変化に起因する耐圧性能要求の定量化が可能となりました。

6月8日には、原子核乾板(エマルション)という特殊な写真乳剤を使用した観測器によって、宇宙から飛来するガンマ線を捉えることを目的としたエマルションハイブリッド望遠鏡による宇宙ガンマ線観測実験を実施しました。ガンマ線はX線よりもさらにエネルギーの高い電磁波で、ガンマ線が発生する電子陽電子対の飛跡を顕微鏡で測定することで、もともとのガンマ線がどの天体の方向からやって来たのかを知ることができます。デジカメ写真に対する銀塩写真のように、人工衛星に搭載されている半導体技術を用いた観測器に比べ、エマルション望遠鏡はより細密な宇宙のガンマ線像を捉える能力を持っています。午前5時04分に放球された満膨張体積10万m3の気球によって高度34.7kmを1時間強飛翔した望遠鏡プロトタイプ1号機に搭載されたエマルションは、実験実施後に損傷なく回収されました。

6月8日の実験終了直後に、気球の回収作業に当たっていた大型クレーン船は震災復興のため釜石港に向かいました。観測機器の回収に当たった漁船の方からは、十勝沿岸の海上にも三陸沿岸からの漂流物が多く流れてきているとのお話を伺いました。さまざまな震災への対応が続いていた中、大気球実験の実施にご協力いただいた関係者各位に深く感謝致します。

(吉田哲也)