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ISASニュース

「あかり」の観測終了と最後の赤外線画像

No.364(2011年7月)掲載

赤外線天文衛星「あかり」が、観測を終了することになりました。

「あかり」は2006年2月に打ち上げられた、赤外線で天体観測をする衛星です。超流動液体ヘリウムを搭載して、望遠鏡をマイナス267℃以下まで冷却し、望遠鏡自身が出す赤外線を抑えて高感度の観測を行います。液体ヘリウムが少しずつ蒸発してなくなるまで、設計通り約1年半の間、「あかり」は研究者にも感動を与える宇宙の赤外線画像などをもたらしてくれました。「あかり」は宇宙用冷凍機も搭載しており、液体ヘリウムがなくなった後も、マイナス230℃程度まで望遠鏡を冷却して一部の赤外線観測を継続してきました。これらの期間の観測成果については、2009年4月に発行された『ISASニュース』の「あかり」特集号や、「あかり」プロジェクトの観測成果のページ(新しいウィンドウが開きます http://www.ir.isas.jaxa.jp/AKARI/Outreach/results/results.html)をご覧ください。

「あかり」は、冷凍機による観測期間まで含めて、当初目標の3年を超える4年間の天体観測を行いました。昨年5月からは、冷凍機の性能劣化でデータの品質が落ちたため、観測を中断して冷凍機性能復帰の努力をしてきました。しかし今年5月24日、新たに電源系統に異常が発生して、冷凍機や観測装置は自動停止し、衛星の温度制御や姿勢制御もできなくなりました。蓄電池が使えず、太陽電池に日が当たったときだけ通信が復活して、地上から指令を送って衛星の状態を調べることができる状況です。そのため、これ以上の観測は不可能と判断するに至りました。このまま「あかり」を、長く軌道を回り続ける「宇宙ごみ」のままにしておくのは忍びなく、どこまでできるかは分かりませんが、できるだけ早く地球大気に突入して寿命をまっとうしてくれるよう、制御を試みます。

図は、「あかり」が今年4月に撮った最後の赤外線画像で、渦巻き銀河M81周辺が写っています。冷凍機が健全だったころに比べると、何十倍も明るい天体しか観測できず、M81の中心部は信号が飽和してしまっています。全体に機能しないピクセルが多く、荒れた画像です。天文研究には使えませんが、「あかり」を開発し運用してきたメンバーにとっては、長く記憶に残る画像です。

(村上 浩)

「あかり」最後の赤外線画像。渦巻き銀河M81周辺が写っている。