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ISASニュース

国際宇宙ステーション「きぼう」における結晶成長実験 Hicari

No.363(2011年6月)掲載

「微小重力下におけるTLZ法による均一組成SiGe結晶育成の研究」(Hicari)が、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」搭載の温度勾配炉(GHF)を使用して開始される予定です。

Hicariは、対流の抑制される微小重力環境において、TLZ法(Traveling Liquidus Zone Method)による結晶成長の原理を検証する実験です。TLZはJAXAが開発した新しい方法で、今までは実現できていない、組成が均一な大型結晶作製への応用が可能だと考えられています。

写真は、実際に結晶実験で使用するカートリッジです。GHFに挿入し、最高温度約1200℃、温度勾配約10℃/cmに加熱します。カートリッジに仕込んだ出発原料は断面図に示すように、シリコン(Si)種結晶とSi原料の間にゲルマニウム(Ge)を挟んだ構成となっています。加熱していくと融点の低いGeが融けて溶融帯が形成されます。続いて、隣接するSiが溶け込み、やがて飽和濃度に達します。カートリッジ内の温度分布でSiの濃度分布を制御します。これによりSi/Geの組成比を制御し、結晶成長が進む長軸方向に長い均一組成を実現するのがTLZ法です。今回は合計4本の実験を予定しており、1回目の結果を2〜4回目に反映させてより高い均一な組成の結晶を作製し、TLZ原理の高精度の検証を目指します。

得られたデータは、地上で種々の大型結晶の育成に役立てる基礎となります。シリコンゲルマニウム(SiGe)は高速・低消費電力トランジスタ用基板材料として有望ですし、ほかにも出力の温度安定性に優れた半導体レーザ用として有望なインジウムガリウムヒ素(InGaAs)結晶への適用が考えられます。産業機器や光通信機器の高性能化、低電力化などが可能となり、産業界や社会のみならず、地球環境へも大きく貢献することが期待されます。

(木下恭一)

結晶成長実験用カートリッジ外観(上)とその断面図