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ISASニュース

「あかり」が描き出す赤色巨星の塵の衣

No.360(2011年3月)掲載

赤外線天文衛星「あかり」は、宇宙に広がる冷たい塵(ちり、固体微粒子)を捉えることが得意です。国立天文台、東京大学、米国デンバー大学、宇宙研などの研究者からなるグループは、「あかり」による観測データの詳細な解析により、星のまわりに淡く広がる塵の衣(ダストシェル)を浮かび上がらせることに成功しました。

太陽のような比較的軽い星は、一生の終わりにその身を削って、ガスや塵として放出します。放出された物質は、はるか彼方の宇宙空間に拡散していきます。この過程は「質量放出」と呼ばれ、星の一生の最期の運命を決定するとともに、星が内部で合成した新しい元素を宇宙空間に供給することで、宇宙の進化においてもとても重要な役割を果たしています。質量放出は、いまだ多くの謎が残っている現象です。我々は、星から放出された塵の分布を正確に測定することで、過去数千年から数万年に質量放出がどのように起きたかを明らかにしようとしています。

図1は「うみへび座U」と呼ばれる星の波長90μmでの画像です。中心の明るい点(星)のまわりに、ほぼ真ん丸に広がっているダストシェルが鮮明に捉えられています。このダストシェルは、その大きさに対してとても薄く、激しい質量放出が短期間に等方的に起きたことを示しています。この短期間の放出は、年老いた星の内部で周期的に起こる熱核融合反応の暴走に起因している可能性が高いと考えられます。また図2では「ポンプ座U」と呼ばれる星の周囲のダストシェルを、世界で初めて中間赤外線(波長15、24μm)で捉えたものです。同様に丸く美しい形が浮かび上がりました。このデータのおかげでこれまでになく精密な解析が可能となり、この星のダストシェルが、性質の異なる2層の構造からなっていることが明らかになりました。詳しくは「あかり」Webページ(新しいウィンドウが開きます http://www.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/Outreach/results.html)をご覧ください。

「あかり」によるダストシェルの観測データは、それ以前に観測された星の数に比べてほぼ1桁大きい、世界最大のデータセットです。研究グループは、今後さらに多くの星の解析を進め、質量放出の謎を解き明かしたいと考えています。

(山村一誠)

図1 波長90μmで観測した、うみへび座U星の周囲のダストシェル
中心に明るく輝く星から遠く離れたところまで、ほぼ真ん丸に広がっている。

図2 世界で初めて中間赤外線で捉えたポンプ座U星のダストシェル
データ処理によって中心星からの赤外線を差し引くことで、ダストシェルの姿を浮かび上がらせた。波長15μm(青)と24μm(赤)のデータから合成。