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ISASニュース

「かぐや」が明らかにした月のマグマ活動史

No.360(2011年3月)掲載

月周回衛星「かぐや」は、2009年6月の月面制御落下により観測運用が終了しました。しかし、「かぐや」によって得られた膨大な科学データの解析は今も精力的に進められており、月の進化に迫る興味深い成果が出始めています。このたび我々「かぐや」搭載月面撮像/分光機器(LISM)チームは、国際科学雑誌『Earth and Planetary Science Letters』に、これまでの月のマグマ噴出史を塗り替える研究成果を発表しました。以下に本研究の成果を簡単に紹介させていただきます。

月の海と呼ばれる暗い部分は、月の内部で形成されたマグマが噴出して表面を覆ってできた領域です。このマグマ噴出の歴史を知ることは、月の内部がどのように冷えていったか、さらには月が最初にどれだけ熱くつくられたか、を理解する上で鍵となる情報です。そこで我々は、LISMによって得られた月全球を覆う膨大な量の画像データを用いて、海の年代決定を進めてきました。  一般に、古い領域では宇宙空間に露出した時間が長いために多くのクレーターがあり、一方で若い領域ではクレーターは少ないと考えられます。このような単純な考えに基づいて、惑星表面のクレーターの数密度から年代を決定する方法を、クレーター年代学と呼びます。この手法を用いることで、画像データから月表面の年代決定が可能になります。

LISMデータは過去の画像データに比べて空間分解能が約1桁高く、それにより小さいクレーターまで調べることができるために(つまりは統計量を稼ぐことができるために)、高い精度で年代推定ができます。我々は特に、これまでに高い空間分解能の画像データが得られていなかった月の裏側の海と、嵐の大洋・雨の海の領域(表紙写真中のPKT領域)を中心に解析を行いました。

解析の結果、月では全球的に25億年前まで、嵐の大洋・雨の海領域では15億年前まで、マグマ噴出が起こったことが明らかになりました。月隕石の年代決定から、43億年前にはすでにマグマ噴出活動が始まっていたことが知られています。つまり月の内部は全球的に20億年もの間、嵐の大洋・雨の海領域に至っては30億年もの長期にわたって、熱かったことを示しています。

なぜこれほどまで長い間、月が熱いままであったのかはよく分かっていません。現在は新たに生まれた謎の解明に向けて、さらなる解析を進めているところです。

(諸田智克)