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ISASニュース

ついに打ち上がった温度勾配炉

No.359(2011年2月)掲載

1月22日、宇宙ステーション補給機「こうのとり」2 号機(HTV2)によって、ついに温度勾配炉(GHF:Gradient Heating Furnace)が国際宇宙ステーション(ISS)へ打ち上げられました。開発当初から関わってきた者としては、感慨深いものがあります。装置は、毛利衛さんが参加したスペースシャトルを使用した微小重力実験「ふわっと’92」用の仕様をもとに、大型試料対応(25cm)にする、大きな温度勾配を確保(150℃/cm)するのが中心で、ほかの装置と比較するとあまり議論を巻き起こすことなく開発が始まりました。

その後、ISS計画の変更を受け、宇宙飛行士の手をなるべく煩わせないように試料自動交換機構を導入して基本設計に着手したのが1993年です。装置としての開発が完了したのが2001年ですから、打上げまで17年間という今までにない地上での長い期間を経た装置となりました。

苦労した点を思い返せば、鉄を溶融可能な試料最高加熱温度1600℃を達成するためにヒータは1700℃以上の温度性能を持つ必要があり、要素試作試験でいろいろ確認した後もヒータ寿命の考え方の設定に苦心したことが挙げられます。また開発完了のころには、日本実験棟「きぼう」の冷却水供給が最高温度で加熱中に停止し、さらに電源が切れないという故障モードでも安全かどうかの議論が巻き起こり、開発としてはこれが一番クリティカル(危機的)でした。

GHFは現在(原稿執筆時)、HTVの中で「きぼう」に取り付けられるのを待っています。あとはISSへの到着と「きぼう」での無事な稼働、GHFを使った実験の遂行を待つばかりです。GHFを使った実験を提案されていた研究者の皆さま、開発を担当された製造メーカーの方々、長い間お待たせしました。

(村上敬司)

HTV引き渡し前の温度勾配炉(GHF)搭載実験ラック