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ISASニュース

「はやぶさ」カプセル内微粒子ピックアップ作業続報

No.358(2011年1月)掲載

『ISASニュース』2010年11月号でカプセル内微粒子が小惑星イトカワ由来と判明したことを報告しました。その後の状況についてお伝えします。

サンプルキャッチャーA室内部の一部をテフロン製ヘラでかき取り、ヘラの先を直接走査型電子顕微鏡観察したことによって、イトカワ由来と思われる微粒子を1500粒ほど発見しました。この粒子のほとんどは十数μm以下とごく微小であるため、一つずつより分けることがすぐにはできません。貴重なサンプルなので、初期分析やその後の分析および長期保管用に分ける必要があり、そのため走査型電子顕微鏡と組み合わせて操作するマニピュレータを新たに開発中です。

新マニピュレータの開発と並行して、キャッチャー内の粒子回収作業を進めています。キャッチャー内にもう一つあるB室内部を見るために、初めて反転操作を行うことになります。これまで観察や粒子の回収をするため開けていたA室開口部に蓋をする必要があり、反転動作で移動した粒子が蓋に付着することが予想されました。そこで、A室開口部に合わせた石英板を新たに作製し、十分な洗浄を施した後に、開口部に石英板で蓋をしてから反転させました。反転動作によってA室開口部に取り付けた石英板に付着する粒子がどの程度かを把握するため、もう一度A室を上にした状態に戻し、石英板を観察しました。すると、そこには目で見ても確認できる(といっても大きくて100μm程度という小ささですが)粒子が多数(光学顕微鏡画像で認識できる粒子で数百個)付着していることが分かりました。

現在、この石英板を取り外し、付着した微粒子の観察・回収を実施しています。初期分析にはここから回収した微粒子の一部が配布され、詳細分析が実施される予定です。今月号表紙の写真は、回収した少し大きめ(0.1mm程度)の微粒子の電子顕微鏡画像と、これとは別のものですが、ほぼ同じ大きさの微粒子をA室のサンプルを受けた石英板上からピックアップして保管用石英スライドグラスへの移動操作をしている様子です。保管用石英スライドグラスは、1.5mm間隔の10×10マス格子をレーザ刻印機で付け、それぞれのマス中央に小さなくぼみをつくってあり、最大100個の微粒子を一度に保管できるようにしています。これまで、ヘラからピックアップした粒子やA室内部から直接ピックアップできた粒子と合わせて、スライドグラス1枚分をほぼ埋め尽くしており、2枚目以降の使用を始めています。

A室のサンプルを受けた石英板の上から回収された微粒子の一部も、走査型電子顕微鏡観察を開始しています。ヘラ先に付着した粒子のように一度に観察することができず、1粒1粒マニピュレータを用いてピックアップし、専用のホルダーに移動させてから観察するため、かなりの時間と根気を要します。少しでも効率を上げるために、ホルダーも複数の粒子が一度に観測できるものを用いています。クリーンチャンバーから電子顕微鏡に微粒子を移動させるには、一度容器をクリーンチャンバーから出す必要がありますが、大気遮断の密閉構造になっており、電子顕微鏡室内に移動させてから容器を開封するため、顕微鏡観察によって微粒子が大気で汚染される心配はありません。

A室の石英板付着微粒子の観察回収作業と並行して、B室の観察も開始しました。B室の蓋を開ける際に手順を誤ると、A室とB室を仕切っている板も外れてしまうため、慎重に作業が行われました。B室の蓋を開けたときの印象は、A室を開けたときと同じで肉眼では何も見えないという感じでした。まだ詳細な観察には至っていませんが、A室同様、B室内部にも同程度の微粒子が付着していると予想しています。

B室開口部も石英板を設置して上下反転させ、石英板に付着した粒子の観察を開始しており、100個程度の粒子が付着していることが分かっています。B室の方により多くの微粒子があるのではという期待がありましたが、その点についてはまだ分かっていません。

現在は、初期分析に分配する可能性のある粒子の回収と分別作業を優先して実施しています。初期分析に粒子を分配した後も、NASAへの粒子分配や、その後に実施予定の国際公募分析へ分配する粒子の回収と分別作業が予定されています。現在、粒子の記載には光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡を中心に使用していますが、今後は記載情報を増やしていくことも検討しています。

(安部正真)

サンプルキャッチャーの構造