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ISASニュース

キュウリの種、再び宇宙へ

No.357(2010年12月)掲載

2010年10月、植物生理研究プロジェクト「微小重力下における根の水分屈性とオーキシン制御遺伝子の発現(Hydro Tropi、代表研究者:東北大学大学院生命科学研究科・高橋秀幸教授)」の軌道上実験が、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」で実施されました。この実験は1998年11月に向井千秋宇宙飛行士がスペースシャトルミッションSTS-95で実施した実験と同じく、キュウリの種子を使用した植物実験です。地上では重力の影響の陰に隠れなかなか見いだすことができない「水分屈性」という現象に着目し、根が水の存在を感知し、水分の多い方に向かって曲がるメカニズムについて、微小重力環境を利用して解明しようとするものです。

キュウリの種子を載せた培養チャンバーや、培養後の根がそれ以上変化しないように固定して地上に持ち帰るためのチューブ(KFT)は、米国東部夏時間5月14日午後2時20分(日本時間5月15日午前3時20分)にスペースシャトル「アトランティス」(STS-132/ULF4)によりケネディ宇宙センターから打ち上げられ、その後キュウリの種子は乾燥した状態で船内に保管されていました。10月18日、宇宙飛行士の手により注射器で発芽に必要な給水がなされ、実験が始まりました。培養チャンバーはカメラ付き計測ユニット(V-MEU)に組み込まれ、「きぼう」船内に設置された細胞培養装置(CBEF)にて培養されました。管制室ではV-MEUにより撮影されたダウンリンク画像により、キュウリの種子が発芽し、根が伸びていく様子が観察できました。培養時間などの条件を少しずつ変えながら、5日間で計3回の培養実験がすべて予定通りに実施されました。培養されたキュウリの根はKFTに入れられ、軌道上の冷蔵庫(MELFI)に保管されました。

キュウリの根を入れたKFTはSTS-133/ULF5フライトにより11月中旬には地上に戻る予定でしたが、スペースシャトルの打上げが遅れているため、現在も軌道上に保管されています。今後の解析により、根が効率よく水を探し当て、植物が「みずみずしく」育つ仕組みが解明されることが期待されます。

(山崎 丘)

実験運用管制室で実験の進行状況を見守る研究チーム(手前が高橋教授)

軌道上実験で使用されたものと同じ培養チャンバーと給水用の注射器。スポンジに刺さっているのがキュウリの種子。