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ISASニュース

2010年度文化功労者に田中靖郎先生

No.357(2010年12月)掲載

このたび、宇宙科学研究所名誉教授 田中靖郎先生が2010年度文化功労者の顕彰を受けられました。X線天文衛星計画の推進や、新たな観測的研究の開拓などに優れた業績を挙げられ、天文学・宇宙物理学の発展および学術振興に多大な貢献をされたことが評価されてのことです。

先生は1974年、JAXA宇宙科学研究所の前身である東京大学宇宙航空研究所に教授として赴任され、X線のエネルギー分解能の良い蛍光比例計数管の開発を始められました。そして、この蛍光比例計数管を「てんま」に搭載し、銀河面に沿って広がる数千万度の高温ガスの存在や多くのX線源に鉄元素の出す輝線を発見して、鉄輝線学ともいえる新しい分野を開拓されました。続いて、大面積X線検出器を搭載した「ぎんが」を実現し、多くのブラックホールX線源の発見を主導されました。ブラックホールX線源からのX線放射に関しては、ほかのX線源とは違う特徴を見いだし、その後のブラックホール近傍からのX線放射の研究に重要な手掛かりを与えられました。さらに、世界で初めて、硬X線にまで感度のあるX線反射望遠鏡とX線CCD撮像分光装置を搭載した「あすか」を実現し、これにより、X線天文学に本格的X線撮像分光の時代を到来させました。また、多くの国際共同研究を実現して、国内外の高い評価を得、日本のX線天文学の国際的な地位を大きく高められました。

これらの業績は、多くの研究者・技術者と共同でなされた結果ではありますが、先生の指導力・牽引力によるところが非常に大きいといえます。先生は、卓越した物理実験家として、実に注意深く観測装置や人工衛星の開発を進められ、また優れた物理的直観で、新しい観測的研究を切り開かれました。その時々の、世界の装置開発の動向や観測的研究の進み具合を的確にとらえ、小型ながら切れ味の鋭い天文衛星の開発を主導されました。先生に直接指導・牽引いただいたものとして、先生の今回の文化功労者受章は、誠にうれしく、誇りに思うものです。

(井上 一)

何機もの天文衛星を主導された田中靖郎先生