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ISASニュース

「はやぶさ」カプセル内の微粒子、イトカワ由来と判明

No.356(2010年11月)掲載

小惑星探査機「はやぶさ」のサンプルキャッチャーからのサンプル粒子回収を、日々慎重に実施しています。現時点では、まだ2部屋構成のキャッチャーのうち最初に開けたA室での回収作業を続けているところですが、特殊形状のテフロン製ヘラで回収し走査型電子顕微鏡(SEM)で観察・分析した多数の微粒子が、地球外物質(小惑星イトカワ起源)であると判明しました。大変うれしく思っています。

今でも、サンプルキャッチャーを開けたときの、「ふらっ」としたショックが忘れられません。ふたが開き、キャッチャー内部の純アルミ蒸着された壁が見えたのですが、リハーサルをしてきたプロトモデル(PM)のキャッチャーと比べても、長い間宇宙にいたにもかかわらず非常にきれいで、“何もない”というのが第一印象でした。“何度もリハーサルをするなど手はずを整えてみんなで待っていたのに、処理するものはないのか”という、血の気が引くような思いをしたのです。

新規開発して準備を整えていた静電制御マニピュレータは、光学顕微鏡で見ることができるサイズの粒子であればピックアップできます。サンプルが裸眼で目視確認できない場合のために事前に検討した手順に従って、試料回収作業を開始します。最初はキャッチャーA室の中の張り出し部を顕微鏡で観察しました。この場所からマニピュレータによってピックアップされた粒子の写真が、新聞紙上をにぎわせました。九州大学(現・東北大学)の中村智樹先生、茨城大学の野口高明先生、九州大学の岡崎隆司先生なども含めたキュレーションチームが最初のころにピックアップした粒子です。

サンプルキャッチャーA室内は、湾曲した壁面、上が狭くて形がいびつで狭くて深い底面、壁面と底面の間にあるすき間、途中に張り出している回転筒など、非常に複雑な形状をしています。この内部にマニピュレータのプローブを入れるための特殊形状プローブの開発や、顕微鏡視野を確保するためキャッチャーを急角度に傾け回転させるなど、当初想定とは違った対応も行いつつサンプルの探索と回収を続け、今までに数十個の粒子を回収しました。

キャッチャー内部に付着した目に見えない小さなサンプルを、テフロン製ヘラで“こする”ことで回収する作業も試みています。現在までに、このヘラの片側に付着した粒子をSEMで観察・分析した結果、十数μm程度以下の粒子が大多数で、人工物を除くとその数は1500個程度、そして、かんらん石、輝石、斜長石、硫化鉄、そのほか微量鉱物からなることが分かりました。また、地球の火成岩(玄武岩、安山岩、デイサイトなど)の破片粒子(桜島の灰を含む)は見つかっていません。見つかった鉱物種、それらの存在量比、および鉱物の成分比率は、隕石(普通コンドライト)と一致し、地球上の岩石と合いません。さらに、「はやぶさ」によるイトカワ上空の観測から推定した物質と極めて似た特徴を備えています。これらより、観察・分析された1500個程度の微細な粒子は地球外物質(イトカワ由来)と判断されています。現在、SEMでヘラ上の粒子を観察しながら回収する装置を準備中で、今年度中にはこれらの微小粒子の個別回収も始める予定です。

まだキャッチャーB室のふたも開けておらず、サンプルの全体の状況把握ができていないので、初期分析の開始時期も決まっていませんが、早く初期分析を開始し回収サンプルのカタログを準備し、二次分析である国際AO(公募)の開始ができるようにと努力しています。

サンプルキュレーション作業は、「サンプルを汚さず、なくさず」を常に心掛けて慎重に進めています。帰還サンプルは長期にわたるミッションの結果でもあり、波瀾万丈の「はやぶさ」の、イトカワでの科学観測、試料収集、長期の惑星間往復飛行、そして、最後にはほぼ完ぺきな帰還をしたサンプルカプセルを見ても、その貴重さは分かります。

回収したサンプルに小惑星イトカワのものがあることが分かりましたが、これは、我々人類が初めて、始原天体である小惑星において直接採取し持ち帰ったものです。採取した場所も時刻も分かっているこのサンプルによって、隕石とイトカワ(S型小惑星)の関係が明らかになると思います。隕石のように大気摩擦による高温度も経験することなく、地球の酸素や水による変成も受けず、有機物汚染や同位体汚染も極力防止された環境で取り扱われている「はやぶさ」サンプルは、科学的に極めて貴重なものです。今後、惑星物質科学にブレークスルーをもたらす可能性を持った、我が国が誇る人類の財産になり、将来にわたってこのサンプルから価値ある科学的成果が生み出し続けられるものと思っています。

(藤村彰夫)

クリーンチャンバー第2室内で、サンプルキャッチャーA室から特殊形状のテフロン製ヘラによって、試料回収を実施している様子。

石英製プローブ先端が数十μmの粒子(上側は影)

テフロン製ヘラで採取された微粒子の電子顕微鏡による観察。これらの粒子も後の分析(別条件)でイトカワ起源であると判明した。