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ISASニュース

N2(笑気ガス)/エタノール推進系の燃焼実験

No.346(2010年1月)掲載

宇宙科学研究本部では、次期固体ロケットシステムのPBS(Post Boost Stage)など、次世代宇宙輸送系への適用を目指して、常温貯蔵可能、低凝固点、無毒を主な特長とするN2/エタノール推進系の研究を続けています。2008年度から秋田県能代市の能代多目的実験場において、真空推力2kN級の推進系試作モデルBBM(Bread-Board Model)によるシステム形態の地上燃焼試験を開始しました。

本年度は、エンジンの性能とロバスト性を向上させる先進的技術要素として、繊維強化セラミックスSiC/SiC製の放射冷却式燃焼器を取り入れたエンジンの技術実証が目標です。着火試験に成功した2009年4月の試験(『ISASニュース』2009年6月号参照)に引き続き、7月に30秒間の長秒時試験を試みました。梅雨の雨間を縫っての実験は無事成功し、SiC/SiC燃焼器は、現在実用されている金属製の放射冷却式燃焼器の耐熱温度を200℃ほど超える条件でも使用できることが確認できました。11月には設計のための基盤データを補強する実験を追加して、先進技術の応用を伴うN2/エタノール推進系の実証研究は、ようやく次の段階に進んだといえます。個別の要素技術についてはまだまだ課題がありますが、本年度実施された37回の燃焼実験によって、ゴールに向けた見通しがだいぶ良くなりました。次はエンジン設計基準の確立と高空性能試験による技術実証を目指します。

ところで、今年度も地元、秋田県立能代高校のインターンシップ学生13名を受け入れました。7月22日、23日の2日間の研修を終えた学生さんの一人から「仕事はつらいものと聞かされていますが、どうして実験班の人たちは楽しそうなのですか?」と真剣なまなざしで質問されたことが特に印象に残っています。回答を考えながら、好きな仕事に熱く取り組む姿に楽しさがにじみ出ているのは大切なことだと、あらためて深く感じ入りました。

作業期間中の10月30日の午前、実験場から東南東方向約2kmにある浜浅内地区から東側の一帯が竜巻に襲われました。実験班員が上空から黒い渦巻き状の雲が降りてくるのを目撃したといいます。人的な被害はほとんどなかったものの、場所によっては木造の建屋が半分以上消失するというすさまじい被害状況でした。被災された方々には早く回復されることをお祈り致します。

(徳留真一郎)

熱い! SiC/SiC燃焼器と実験班。能代高校の生徒さん13名と。