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宇宙科学の最前線

ガンマ線偏光観測の実現とガンマ線バースト放射メカニズムの研究 金沢大学理工研究域 准教授 米徳大輔

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 2010年5月に打ち上げられた小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS(イカロス)」は、世界初となる太陽光圧による加速実証を成し遂げ、次世代のソーラー電力セイル技術開発の第一歩を踏み出しました。その大成功を受け、木星およびトロヤ群小惑星帯への航行技術として利用することが検討されています(『ISASニュース』IKROSのソーラーセイル航行技術・ソーラーセイルによる深宇宙航行技術の実現[津田雄一氏]、木星のトロヤ群小惑星からサンプルリターン[森治氏]の記事など参照)。

 IKAROSには2種類の理学観測装置が搭載されています。一つは宇宙空間のダストを検出するための大面積ダストカウンター(ALDN)で、もう一つは我々のグループで開発したガンマ線バースト偏光観測装置(GAP)です(IKAROSに搭載されたガンマ線バースト偏光観測装置[村上敏夫氏ほか]の記事参照)。本稿ではGAPで得られた科学成果について紹介させていただきます。


宇宙最大の爆発「ガンマ線バースト」

 ガンマ線バースト(GRB)とは、100億光年以上も離れた宇宙から数十秒間という短時間だけ大量のガンマ線が飛来する現象です。ガンマ線の総エネルギーは、超新星爆発をはるかにしのぐような宇宙最大の爆発現象と認識されています。GRBは一瞬だけではありますが非常に明るく輝くので、はるか遠方の宇宙(初期宇宙)を見渡せる光源として利用されています。宇宙科学における重要性がますます増している現象といえます。

 しかし、そのような膨大なエネルギーをガンマ線放射として解放するメカニズムについては、観測的に突き止められていません。さまざまな観測から、細く絞られたジェット状に光速の99.99%にも達する速度を持った粒子や光子が噴き出していることが分かってきました。しかし、その中でどのようにガンマ線をつくり出しているのかというプロセスについては不明な点が多いのです。理論的な予想では、相対論的ジェットの内部に強い磁場が存在し、そこに電子が絡み付いてガンマ線をつくり出す、いわゆる「シンクロトロン放射」だと考えられています。電子はローレンツ力を受けて磁場と垂直な面内で運動しますから、このとき発せられるガンマ線は、磁場と垂直な方向に強く偏光します。ガンマ線偏光を直接的に検出することがGRBの放射機構に迫る最良の手段と考えられます。


偏光観測の重要性

 電磁波は、振動する電場と磁場が波として伝播するものです。電場の振動方向を偏光方向として定義しますが、この向きが完全にランダムな場合を無偏光といい、完全に方向がそろっている場合を完全偏光(100%偏光)といいます(ここでは直線偏光のみを扱います)。身近なところでは、釣りやスキーのときに掛ける偏光サングラスなどで使われています。水面やゲレンデの斜面で反射した光は強く偏光しているため、その偏光光線をカットするような偏光フィルムを使うと、まぶしさを軽減できるわけです。宇宙観測でも、ガスやプラズマで散乱した光や、よくそろった磁場に絡み付いた電子からの放射(前述のシンクロトロン放射)などから、強く偏光した光が観測されます。

 これまでのGRB観測では、ガンマ線の到来方向、時間変化、エネルギーという3種類の物理量を観測していましたが、ここに「偏光」の情報が加われば、磁場の存在やプラズマの形状を知ることができ、まったく新しい切り口で放射メカニズムに迫れるわけです。特に、理論的に考えられているような磁場の存在を立証できることが大きな特徴です。


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