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宇宙科学の最前線

  ガンマ線偏光観測の実現とガンマ線バースト放射メカニズムの研究 金沢大学理工研究域 准教授 米徳大輔

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 図2に磁気異常解析によって精度よく得られた月の磁極(プラス極)を示します。磁極は北半球と南半球の両方で高緯度と中・低緯度に偏って分布しています。プラス極が南北両半球に分布しているということは,月の磁場が「逆転」という現象を起こしていた可能性を示唆しています。逆転は過去の地磁気でも確認されている,いわば棒磁石の向きが反転する現象です。そこで南半球の磁極についてはマイナス極を採用して,すべての磁極を北半球に集めてみました。その結果,磁極のまとまりが非常に良くなり,現在の月の自転軸付近と,緯度にして30〜45度周辺の2ヶ所に磁極が集中することが分かりました(図3左)。米国のルナ・プロスペクタ衛星のデータに対する解析からも同じような結果が得られたことから,信頼性の高い結果であるということができます。

図2
図2 「かぐや」データを用いて推定した月の磁極のうち精度よく推定された磁極の分布(緑)
青線は推定誤差の範囲。破線で囲まれた地域は解析に用いた全磁気異常の位置を表す。


図3
図3 過去と現在の月の北極の推定位置(左)と,過去の月地形の分布の想像図(右上)と現在の様子(右下)
左図は月の北半球を北極側から見た図で,数字は経度。青い星印は「かぐや」,赤い星印はルナ・プロスペクタのデータから推定された月の磁極の平均位置を表し,破線は推定誤差の範囲を表す。

 磁極の集中が2ヶ所に見られるという結果は何を意味するのでしょう。地球を例に挙げると,長時間の平均を考えれば,地球の磁極と自転の極の位置は一致することが知られています。これはダイナモがつくる大規模な磁場が持つ重要な性質です。従って,この結果が示す事実は次の3点にまとめられます。@過去の月には金属核のダイナモによる大規模な磁場が存在していた。A月の磁場は地磁気と同様な逆転を起こしていた。B過去の月の自転軸は緯度にして現在から45〜60度異なる場所にあった。特にBは,過去の月で真の極移動(自転軸に対する地殻全体の相対運動)という現象が起きていたことを意味します(図3右)。従って,過去の月を地球から見ることができたならば,現在とは大きく異なって見えることでしょう。真の極移動によって自転軸が現在の位置に移動した年代は約40億年前と推定されます。


極移動の意味

 前述の3つの発見はいずれも月の起源や進化過程を理解する上で重要な発見ですが,ここでは極移動がもたらす意味について一例を示します。月には南極エイトケン盆地という月最大の衝突盆地が裏側の中高緯度に広がっています(図3右下)。このような巨大衝突盆地を形成するには,月の南側から深い角度で衝突が起こるという,理論的には幾分厳しい条件が必要です。一方で,極移動が起きていた場合,南極エイトケン盆地は過去に月の赤道付近に位置したことになります(図3右上)。すると,特別変わった条件を考える必要がなくなり,赤道付近への巨大衝突で形成されたと考えることが可能になります。極移動を考えることで,月最大の衝突盆地の形成モデルが大きく異なるものになるのです。極移動の存在を踏まえた月の進化モデルが今後つくられることが期待されます。

 「かぐや」は2009年6月に月に還りその役目を終えましたが,「かぐや」によって取得されたデータには月の秘密がまだまだ隠れています。「かぐや」およびLMAGの研究成果にこれからもご期待ください。

(たかはし・ふとし)

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