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宇宙科学の最前線

磁場で捉えた月のダイナモと極移動の痕跡 金沢大学理工研究域 准教授
米徳大輔

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 図1に2007年10月28日に実施されたマスト伸展時のLMAGの観測データを示します。伸展前は衛星本体による磁場が非常に大きく,約700nTです。伸展開始から衛星由来の磁場は急速に小さくなり,伸展終了後の磁場は数nT程度にまで下がっています。通常,月周辺の惑星間空間磁場は数nT程度なので,磁場干渉は問題のないレベルにまで下がっていることが確認できます。こうした徹底的なEMC対策に支えられながら,LMAGによる月磁場観測が行われたのです。


図1
図1 「かぐや」のマスト伸展前後の様子とLMAGによる磁場の時系列データ
マスト伸展開始以降,衛星本体から離れるに従って,急激に磁場が小さくなっていく様子が確認できる。

磁気異常が示す月のダイナモと極移動

 次に実際のデータ解析について説明しましょう。月に磁気異常が存在するということは,月の岩石が磁石としての性質「磁化」を持っていることを意味します。岩石が磁化を獲得する物理的な過程にはさまざまなものがありますが,特に岩石が熱い溶岩から冷え固まる際に当時の磁場と平行に獲得される磁化を熱残留磁化と呼びます。熱残留磁化が記録する磁場としては,大規模かつ長期間安定に存在するダイナモによる磁場が唯一のもっともらしい候補になります。そこで,磁気異常から磁化情報を抽出して,それが当時のダイナモによる磁場の記録であるかどうかを調べることになります。最も重要な情報は磁化方位です。磁化方位が得られれば,当時の磁極を推定することができます。磁極とは,月の中心に置いた棒磁石のプラス極(地磁気の場合S極)またはマイナス極(同N極)の延長線と月表面との交点です。前述の通り,月中心には棒磁石は存在しないので,これはあくまで仮想的なものであり,仮想月磁気極と呼ぶべきものです。「かぐや」は2009年2月以降,高度20〜50kmでの低高度観測を実施しました。一般に,磁気異常の源がある月面近くで観測を行うほどデータの質が高くなるので,今回のような詳細な解析には低高度観測時のデータを用います。

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