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宇宙科学の最前線

  ガンマ線偏光観測の実現とガンマ線バースト放射メカニズムの研究 金沢大学理工研究域 准教授 米徳大輔

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要求した能力で何ができるか

 仮定した能力がイプシロンで実現されたとして、その枠で探査機側に科学的に意味のあるミッションが出てこなければ要求する意味がない。そこで、次にすべきは「できそうなこと」の大枠を見積もることで、要求の意義を示すとともに科学コミュニティからのプロジェクト提案を促すことになる。現在、イプシロンへの能力要求を導出した集まりを引き継ぐ形で、この大枠見積もりの検討を行っている。

 ところで、検討を待つまでもなく国内コミュニティでは複数の探査ミッション提案が練られている。そうすると、本検討はひとまずそれらがカバーしていない領域から補っていくのが妥当だろう。これを航法技術と目的地という観点から分析したのが表1である。これにより、まずは重力天体探査と小惑星探査の実現性から検討することになった。


表1

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表1 現在提案されている諸ミッションの分類
深宇宙探査機の技術構成を大きく変えるのは「加速」手段なので、縦軸はその技術形態で分類した。横軸は太陽系の地球近隣の天体までで分類している。○△をなるべく多くカバーするミッションを「パイロットミッション」として検討する。


 検討に当たり、以下の3点を指針とした。(1)チャレンジングでも限界をあぶり出すこと。限界を少し超えたあたりでもよい。(2)太陽系の一定領域を網羅できることを示唆できること。(3)現在の宇宙研の知見を活かせ、育てられ、できれば20年後につなげられるコンセプトであること。

 これらはいずれも、まずは近未来の探査機本体の技術としてどこまで行けてそこで何ができるかの考察から始めなければならない。その結果、以下の知見が整理された。(A)火星・金星が守備範囲内なら軌道力学的には木星にもたどり着ける。ただし、電力・通信などの観点で実用的な探査機がつくれるかどうかは自明ではない。(B)探査機をいったんSELに送り込み、これらを含む等ポテンシャル領域の適切な位置まで移動してから目的地へ射出すれば、より大質量を目的天体へ届けられる。(C)複雑なことをする探査機には打上げ能力が足りない可能性がある。これを補うためには、複数の探査機を複数のロケットで打ち上げ、協調動作により一級の成果を挙げる戦略も視野に入れるべきである。

 複数探査機でのミッションについては、少し説明が必要だろう。同様のことを実現するには、イプシロンに頼らずともH-IIAでの2機打ちや大型衛星化という方法もある。しかし、比較的安価なロケットを使って打上げから別々にすると、打上げ時期や軌道をまったく別にできたりミッションを段階的に組み立てていけるという利点が生じる。そして、それはイプシロンの高打上げ頻度と簡素な射場オペレーションが可能という特性と相性が良い。イプシロンの成功は、さまざまなセンサや機能を一つの探査機に詰め込んできたこれまでの手法から、複数の機体に分割する方向への分化を誘っているともいえる。

 これらを実現させる探査機のつくり方の具体的検討は、これからである。しかし、すでに以下のような課題が見えてきている。まず、惑星分光観測衛星「ひさき」などの現在の小型科学衛星の基盤であるSPRINTバスは、まだ重過ぎてそのままでは使えない。これは、設計が標準化や柔軟性の確保に振り向けられていることによる。従って、ここから地道に各部の軽量化を追求し、また工学系において不断の研究活動として行われている新たな試作や実験に基づき設計の技術革新を起こさなければならない。加えて、それらを探査機設計としてまとめ上げるときには、ミッション要求に真に必要な機器構成を精選して、全体をゼロから再構築する覚悟も必要になる。そして探査ミッション群が継続的に維持されるためには、科学や探査以外のミッションで使われる技術ともできるだけ共通要素を持たせなければならないだろう。


この先の動き

  乗り物としての探査機にできそうなことが見えてきたので、大枠を具体例の形で考えられる段階になってきた。ここから先はさまざまな学術分野の希望と密接に絡んでくるので、宇宙研という狭い範囲・視点だけでうかつに検討を進めるわけにはいかなくなる。また、ミッションには工学的・理学的な先進性が求められることになる。そこで、検討会議ではさまざまな目的に適応し得ると思われるサンプルをいくつか想定し、その実行規模を見極めることで現実のミッションを提案・評価する際の助けとなる情報を抽出しようとしている。一つのミッションをつくるのに数年かかることや、イプシロンの増強仕様を決めるのにもうあまり時間がなさそうなことを考えると、そう遠くない先にまとまったイメージを皆さんにお見せできるのではないかと思う。

(おざき・まさのぶ)

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