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宇宙科学の最前線

イプシロンロケットを使った探査の検討 太陽系科学研究系 准教授
尾崎正伸

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イプシロンへの性能要求

 このような訳で、イプシロン側と科学衛星側で、互いに必要な/実現できる能力や打上げ頻度の検討がなされている。ここではまず、科学衛星(宇宙研)側で2013年度末に行われたこの検討作業について紹介する。

 日本の探査機は、(少なくとも今までは)少ないチャンスになるべくたくさんの機器を詰め込んでミッションをつくってきた。従って、今までのやり方を踏襲して探査機を見積もると、自然とΜ-Xに近い打上げ能力要求となる。一方で、イプシロンに高過ぎる要求をするとH-UAやその後継機より高くついてしまうかもしれず、そこまでいかなくても「費用対効果が悪い」と増強を認めてもらえないかもしれない。だがそれに代わり、半年に1機程度の頻度なら無理なく対応できるという特性を持つ。

 そこで宇宙研側では考え方を変え、探査機として機能するために譲れない最低限を見極め、従来に比べてコンパクトなミッションを高頻度で行うという前提で要求能力を見積もることにした。現在の技術で探査機をつくると、観測装置も含めて質量はおよそ500〜600kgになるが、この技術は実は10年前と本質的には同じで、観測装置も多数詰め込んでいるが、今も続く電子回路実装の小型化や材料の進歩を精いっぱい取り入れ、観測装置も複数の機体に分けるなどで最低限の個数とすることを前提条件として、目標を400kgとした。2割から3割の軽量化は宇宙分野ではとてつもない冒険だが、探査装置の本質である電子装置が軽くなれば、それを保持する構造系はより軽量で済み、それらを運ぶ推進系質量はもっと軽量化できるかもしれない。その結果として全体でこの削減量を目指す。

 軽くした質量をどこまで運ぶかが、要求のもう一つの焦点になる。探査の目的地は大ざっぱに言うと太陽系全域だが、ある程度より遠くに行くには、普通は引力の強い惑星・衛星でスイングバイを行う。ただし、スイングバイは直接の航行に比べて普通は時間がかかるので、現実的な時間で探査をしたければ地球の最寄りの惑星までは直接たどり着く力が欲しい。火星や金星まで持っていければ、その先はスイングバイを使ってさらに進むことができる。

 一方で、月の裏へのアプローチや日本が「はやぶさ」の実現で強みを持つ小惑星へのサンプルリターンを効率的に行うには、探査機を地球=月ラグランジュ点(EML)や太陽=地球ラグランジュ点(SEL)近傍にいったん滞留させて適切なタイミングで惑星間空間に送り出すのが、都合が良い。この場合は、滞留領域から目的地に向かうのに推進剤が必要となるのとラグランジュ点でのさまざまな運用のため、航法的に高度なミッションになるので、600kg程度の質量があるのが望ましい。

 こうして、ひとまずイプシロンへの能力増強要求として「火星や金星の公転軌道へ400kg程度の質量を送り込める、SELへ600kg程度の質量を送り込める」を仮定して、探査機側のさらなる検討をすることになった。さまざまに検討されているイプシロンの形態がどのくらいの質量をどのくらいの軌道に送り込めるかは、図1を参照していただきたい。

図1

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図1 さまざまな形態でのイプシロンの打上げ能力
横軸のC3は、地球から打ち上げて無限遠の彼方まで持っていったときにペイロードがなお保持している速度の2乗の値で、マイナスだとそこまで届かず再び地球に戻ってくることを意味する。


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