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宇宙科学の最前線

イプシロンロケットを使った探査の検討 太陽系科学研究系 准教授 尾崎正伸

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 科学研究は本来、それぞれの目的がまずあってそれを何とかして実現していく、というのが王道だろう。しかし、宇宙科学のように巨額の予算とたくさんの資源を必要とする場合、世界の宇宙科学をリードするためにも、まず諸目的と実現手段をさまざまな方向から整理検討し、現実に合わせて目的を段階的にしたり実現優先順位をつけたりといったやり方が要求される。

 この整理検討として、新たな「宇宙科学・探査ロードマップ」が2013年に策定された。それにより宇宙研は、この先10年ほどは「機動性の高い小型ミッションによる工学課題克服・技術獲得と先鋭化したミッション目的」を持った太陽系探査を、行動の柱の一つとすることになった。そしてその先の10年で、獲得した知見を使って自在な探査活動を展開することになる。


宇宙科学・探査ロードマップとイプシロンロケット

 「機動性の高い小型ミッション」の鍵は、イプシロンロケットの活用である。しかし、探査すなわち惑星間空間への飛翔体の投入は地球周回軌道への投入よりはるかに大きなエネルギーが必要であり、現在のイプシロンの能力では肝心の観測機器が載せられないということになりかねない。そこで、イプシロンの能力向上をまず求めることになる。

 イプシロンは、宇宙研のロケット開発の流れをくむ固体ロケットである。維持・改良・増強などの活動は、宇宙研と宇宙輸送ミッション本部が協力して進めている。さまざまな検討が進められている現在、宇宙研として打上げ能力の増強が必要なら、この時期を逃すことはできない。また、増強には追加の予算が必要であり、日本のロケットラインアップを考えれば青天井の要求は通じるはずもない。

 科学衛星群が長期計画を考える基盤としてイプシロンの活用を前提とするなら、能力増強型の開発以前に、宇宙科学の打上げ能力要求値を明らかにしておかなければならない。一方で、イプシロンは基幹ロケットと位置づけられていることから国が維持していくためにも産業競争力を向上させることが求められ、小型衛星市場のニーズに対しても適正な打上げ能力を付与することも想定する必要がある。そして科学衛星プロジェクト群は継続的需要の大口枠であり、宇宙研は「勝手の分かる輸送機」「ロケット開発の基盤」として、このロケットを上手に使っていくことを考えている。



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