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宇宙科学の最前線

「はやぶさ2」のレーザー高度計 宇宙機応用工学研究系 准教授 水野 貴秀

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 そこで開発期間の厳しい「はやぶさ2」では、APDとアンプ(トランスインピーダンスアンプ)が一つのパッケージになった月周回衛星「かぐや」で実績のあるHIC(Hybrid IC)を採用して、開発期間の短縮を図りました。しかし、このHICにはアンプゲインが切り替えられないという弱点があり、回路ゲインとしてはAPDのバイアス電圧による2段階だけになってしまい、100万倍ものゲイン範囲に対応できません。これを補うために、「はやぶさ」にはなかった近距離用の小さな望遠鏡を用意して、1km付近で切り替えて光量を約1/1000に絞ることにしました。図3bが予想される受信光量です。「はやぶさ」(図3a)と「はやぶさ2」(図3b)の特性がだいぶ違うのがお分かりいただけるでしょうか。

図3
図3 距離による受信光量の変化


フィールド試験

 こうして設計され製造された「はやぶさ2」のレーザー高度計のEM(Engineering Model)が、5月に北海道大樹町多目的航空公園の滑走路で試験されました。図4aの写真手前は滑走路の延長上に設営されたテント内のレーザー高度計で、奥では地上試験装置の画面をにらむ実験班員の姿が見えます。図4bの写真中央の灰色の四角い板はレーザーを照射するターゲット、キノコのように生えたアンテナはGPS測量機です。このターゲットを台車に載せて長さ1kmの滑走路を歩くことで、「はやぶさ2」が着陸する状況を模擬したのです。滑走路の周囲にはタンポポが咲き乱れ、林にはカッコウが鳴き、時折キタキツネが姿を見せるのどかな風景の中で試験は順調に進み、レーザー高度計が設計通りの機能と性能を持っていることが確認できました。

図4
図4 大樹町多目的航空公園でのフィールド試験風景


おわりに

 レーザーを使った距離測定は、ゴルフの飛距離測定、車の衝突防止など、私たちの生活の中でも広く利用されています。本稿では小惑星探査機「はやぶさ2」という特殊な用途に特化したレーザー高度計について、設計上の悩みなども混ぜてお話しさせていただきました。

 最後になりますが、レーザー高度計のレーザーに使われているYAGロッドは、イットリウムとアルミニウムの複合酸化物から成るガーネット構造の結晶です。1月の誕生石でもあるガーネットはパワーストーンとして、「再会」「努力の成就」といった意味もあると聞きます。「はやぶさ」に続いて、パワーストーンを身に着けて長く孤独な宇宙の旅に出る「はやぶさ2」を、どうか皆さんで応援してください。

(みずの・たかひで)



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