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宇宙科学の最前線

「はやぶさ2」のレーザー高度計 宇宙機応用工学研究系 准教授 水野 貴秀

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 時が過ぎるのは早いもので、小惑星探査機「はやぶさ」の打上げからもう10年もたってしまいました。そして、2機目の小惑星探査機「はやぶさ2」の打上げに向けて、チームの努力と多くの方のご協力で着々と開発が進められています。

 本稿では、「はやぶさ2」に搭載されるレーザー高度計について、「はやぶさ」のそれと比較しながらご紹介します。

距離を測る

 長い距離を測る技術は、宇宙開発においてロケットや衛星の軌道決定、位置決定のために大変重要です。地上とロケットや衛星との距離測定は、近年GPSによるものもありますが、マイクロ波(波長が1m〜1cmぐらいの電波)を使ったレーダー(RADAR:RAdio Detection And Ranging)の技術が主になります。例えば、地上とロケットとの距離はマイクロ波パルスの往復時間から測定され、衛星との距離は特殊な配列の符号や周期的に変化する変調周波数をマイクロ波に乗せることで電波の往復時間から測定します。

 こうした宇宙での距離測定の中で、やや特殊なケースとして、惑星探査機(地球周回衛星でない)自身による対象天体との距離測定があります。例えば、月や惑星探査機による地形調査や、軟着陸のために天体表面との距離を測定する場合です。マイクロ波を使った距離測定は、大気による減衰が少なく、距離に加えて速度も比較的容易に出すことができるというメリットがあります。しかし、重量制限の厳しい惑星探査機では大きなアンテナを持てないため、ビームの指向性(特定方向にエネルギーを絞る特性)が広くなってしまい、測定距離は数km程度になるのが通常です。それに対して、指向性に優れたレーザー光を使い、マイクロ波レーダーよりも小型・軽量で、遠い場合には数百kmに及ぶ距離測定を可能にするのが、レーザー高度計です。

 こうした特徴から、レーザー高度計は惑星探査機の天体との会合、地形測定、着陸といった航法・誘導の重要な場面で活躍します。また、高度計としての機能を使って天体の重力を測定したり、天体から返ってくる光の強さを測ることにより表面特性の分布を調べたりといった、科学観測機器としても重要な役割を果たします。

レーザー高度計

 「はやぶさ2」が搭載しているレーザー高度計はライダー(LIDAR:LIght Detection And Ranging)と呼ばれ、レーザーパルスの往復時間から距離30m〜25kmを測定することができます。レーザーパルスとは短い時間だけ照射されるレーザー光で、「はやぶさ2」のレーザーパルスの場合、10ナノ秒(1億分の1秒)程度の時間です。

 レーザー高度計の動作を、図1に示す構造図を使って説明します。右側にあるコントローラーは、光が目標まで行って反射して返ってくるまでの時間測定、レーザーの発射指示、探査機システムとのやりとりが主な役割です。コントローラーからの指示で発射されたレーザーは、ビームエキスパンダーというレンズ系で指向性を鋭くして目標へ向かいます。このとき、レーザー光の一部をPIN PD(PIN Photo Diode)へ送って、コントローラーに発射の正確な時刻を知らせます。惑星表面で反射して返ってきた微量の光は、カセグレン型の望遠鏡でAPD(Avalanche Photo Diode)上に集光されて微量の電流に換わります。この電流はアンプで適当な電圧レベルに調整され、タイミング検出器でデジタル信号となって、コントローラーに光が返ってきた時間を知らせます。例えば、30kmであれば、数十兆分の1の強度になって返ってくる光を検出して、往復で200マイクロ秒(1万分の2秒)の時間測定をすることになります。ただし、この光量は距離の2乗に反比例するため、30mになると30kmのときの100万倍も強い光が入ってくることになり、後で説明する受信回路は広い範囲のゲイン調整(電圧レベルの調整)が要求されます。

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図1 レーザー高度計の構造


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