宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > 宇宙科学の最前線 > 極端紫外線分光で分かる惑星プラズマ環境と惑星大気流出

宇宙科学の最前線

極端紫外線分光で分かる惑星プラズマ環境と惑星大気流出 太陽系科学研究系 助教 山ア 敦

│1│

 私たちのような生命体を育む地球周辺の宇宙環境の成立は、必然なのか、偶然なのか? そんな根源的な疑問を抱いたことはないでしょうか。

 太陽系の8個の惑星のうちで、生命体が存在していると確認されている惑星は、地球だけです。けれども、たくさんの系外惑星が発見されていますし、中には中心星からの距離・サイズが地球と類似した惑星も見つかっています。地球のような環境がほかにも存在しているかもしれません。

 プラズマや大気は普通目には見えませんが、極端紫外線で観測すると、その組成や分布が見えてきます。この極端紫外線で惑星環境を観測すると、何が分かるでしょうか? 本稿では、2013年夏に新型固体燃料ロケットイプシロンで打ち上げる計画で小型科学衛星1号機(SPRINT-A)として始まったプロジェクトの極端紫外線分光による惑星観測(EXCEED)ミッションについて紹介します。

極端紫外線とは

 SPRINT-Aで分光観測する極端紫外線について説明します。波長境界が重複している影響もあり複数の定義がありますが、ここで取り扱う極端紫外線は、紫外線分光手法の立場からの定義を採用します。

 可視光線は目に見える色の付いた光です。紫色から赤色まで、虹を構成する色々です。波長は約380〜760nm(ナノメートル、1nm=1mの10億分の1)といわれています。可視光線以外の目に見えない光は、波長が短い光は紫色より外側の光ということで紫外線、長い光は赤色より外側の光ということで赤外線などと呼ばれています。

 赤外線の波長はおよそ700nm〜1mmで、そのエネルギーは物質を構成している分子の振動エネルギーや黒体放射のエネルギーと同程度です。したがって、物質から放射する赤外線や物質に吸収される赤外線スペクトルを調べると、その物質の化学組成や温度を推定することができます。

 紫外線の波長はおよそ10〜400nmで、強い化学作用を持っています。例えば、色あせや皮膚の日焼けやシミの原因であったり、殺菌・消毒目的に利用されたりしています。紫外線の中で波長が短くなるにつれて、だんだん大気を透過しにくくなります。315nmより波長が短い紫外線は、オゾンによって吸収されるようになります。波長が200nmより短くなると、大気中に存在する酸素分子・窒素分子により吸収され、大気中では伝搬できない光となります。

 大気中を伝搬できない、波長およそ10〜200nmの光を取り扱うには、大気を排除し真空にする必要があります。真空中でしか取り扱うことのできないこの紫外線のことを真空紫外線と呼びます。さらに波長105nmを境に真空紫外線を取り扱う技術に大きな違いがあります。波長が105nmより長い光を吸収せず透過する物質があるのに対して、波長が105nmより短い光を透過できる物質はありません。つまり、測定光学系にレンズなどの透過型光学部品を使用できるか、反射鏡などの反射型光学部品だけしか使用できないかという大きな差となります。

 そこで、波長105nmを境にして光に異なる呼び方を与え、短い波長の光を極端紫外線と呼びます。これが本衛星で観測する光で、宇宙空間でしか観測できない光です。多くの原子や分子が固有の波長の真空紫外線を吸収し発光していますので、分光観測の波長計測により原子・分子の同定が、発光強度測定により原子・分子の存在量測定が可能となります。

│1│