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宇宙科学の最前線

X線で探る超新星残骸 理化学研究所 玉川高エネルギー宇宙物理研究室 基礎科学特別研究員 勝田 哲

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 ベラでは、周辺に散在する広がったX線構造を詳細に解析しました。その形状から超新星爆発時に弾丸のように飛び散った星の破片と推測されていたのですが、分光解析によってその証拠を明らかにしました。では、どのようにして恒星内部でそのようなガス塊ができたのか? 超新星爆発時に起こる流体力学的不安定性に起因すると考える理論研究者もおり、もしかすると超新星爆発のメカニズムと密接に関係しているのかもしれません。

電荷交換反応由来のX線の検出

 SNRからのX線放射過程は、熱的な制動放射と非熱的なシンクロトロン放射の2種類のみと長年信じられてきました。しかし、それらに加え、電荷交換反応由来のX線も無視できないことが、最近の「すざく」の観測から明らかになりました。

 私たちは、はくちょう座ループ外縁を「すざく」によって全域にわたって28回の分光・撮像観測を行い、X線構造とスペクトルを導出しました。その中で、衝撃波直後の領域に熱放射では説明のつかない輝線構造を見いだしました(図3)。さまざまな観点からその起源を検討した結果、水素様酸素と中性水素電荷交換反応に伴う放射らしいことが分かりました。電荷交換反応X線自体は、地上実験や彗星などでよく見られる放射ですが、SNRから検出されたことはありません。それ故、SNR研究の新展開を予感させる興味深い結果です。今後、この放射の確証を得るための追観測や、科学的意義について考察を行う必要があります。

図3
図3 はくちょう座ループ外縁部から抽出した「すざく」のスペクトル
十字はデータ、線は熱的放射モデルを示している。おおむね熱放射モデルで再現されるが、0.7keV付近(矢印)にモデルからの超過成分が見られる。


結び

 本稿では、X線天文衛星「Chandra」「XMM-Newton」「すざく」を用いたSNRのX線観測成果の一部をご紹介しました。このほかにも興味深い結果が数多くあり、SNRの観測的研究は力強く進展しています。日本の次期X線天文衛星「ASTRO-H」搭載のマイクロカロリメータは、X線CCDに比べ分光能力が20倍ほど優れた非分散分光器です。これによってSNR研究が躍進することは疑う余地がなく、非常に楽しみです。素晴らしい観測装置の設計・開発にご尽力されているすべての皆さまに深く感謝致します。

(かつだ・さとる)



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