TOP > レポート&コラム > 宇宙科学の最前線 > 観測ロケットを用いた超高層大気領域の研究
青空のかなたには何があるでしょうか。 「宇宙」と答える方が多いかもしれませんが、雲が浮かぶ高度約10kmまでの対流圏の外側には成層圏、中間圏、熱圏とさまざまな領域が広がっています(図1)。高度約80km以上の空間は大気の一部が電離していることから、電離圏と呼ばれています。電離圏は、我々が生活する地上とも宇宙空間とも異なる極めて特異な領域です。ここでは「超高層大気領域」という一般的な名称を用いることにしましょう。本稿では、この領域の特徴と現在行われている研究を、分かりやすく紹介したいと思います。
超高層大気領域の特徴で最も顕著なものは組成です。下層大気は中性大気のみ、宇宙空間では(大気が電離した)プラズマが99%以上を占めますが、超高層領域には中性大気とプラズマが共存します。プラズマは電場や磁場の影響を受けながら運動しますが、大気はそうではありません。しかも両者間には衝突があるので、電磁場の影響を受けて運動するプラズマ粒子は大気粒子と衝突を繰り返しながら動いていくことになります。こんな領域は、ほかにありません。 超高層大気領域は我々が生活する空間に比較的近く、その他の宇宙空間に比べて観測の歴史は長いのですが、未解明の問題が数多く残されています。その主な理由は、大気とプラズマが共存することと、観測手段が限定されていることにあります。高度250km以上の空間は人工衛星を用いると長期間の観測が可能になりますが、80〜200kmの高度領域は人工衛星には低過ぎるし、気球では到達できない高度なので、長期間の連続観測が困難なのです。地上から観測する手段もあり連続観測にはとても有効ですが、局所的現象の議論には限界があります。このように超高層大気は、直接的な観測時間で考えると最もデータ量の少ない領域です。 この空間について「その場」での観測を可能にする手段が、観測ロケットです。このロケットの先端部(頭胴部と呼ばれる)には測定用の機器が搭載され、ロケットが超高層大気領域を飛翔している間に観測を行います。科学衛星では測定器がロケットから切り離され周回軌道に入った後に観測が開始されますが、観測ロケットではロケットが飛翔している間が勝負です。宇宙科学研究所はK(カッパ)型、S(エス)型などの観測ロケットを用いて、さまざまな超高層大気領域の観測を行ってきました。表1に2000年以降に打ち上げられた観測ロケットの一覧を示しますが、多岐にわたる実験が行われてきたことが分かります。ここではその中の3つの実験を例として、どのような研究が行われているかについて紹介します。
|