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宇宙科学の最前線

MAXIが見たブラックホール連星 東京工業大学大学院 理工学研究科 教授 河合 誠之

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はじめに

 MAXI(Monitor of All-sky X-ray Image)は、国際宇宙ステーション(ISS)に搭載された全天X線監視装置です。同じくX線で天体を観測する「すざく」が、空の一点を精密に長時間観測するのとは対照的に、MAXIはISSが地球を一周する92分ごとにレーダーのようにほぼ全天を掃天し、さまざまなX線源の活動を監視します。

 MAXIは、2009年7月、スペースシャトル・エンデバー号でISSに輸送され、 8月から定常観測を開始しました。『ISASニュース』2009年8月号と11月号にMAXIの観測装置の概要とISSへの輸送・設置が紹介されています。本稿では、ミッション最初の1年半の観測成果のハイライトとして、主にブラックホール連星に関する成果を紹介します。


X線で見る空

 X線で観測する空は、可視光によるものとまったく様相が異なります。可視光で見る夜空には、無数の星が天の川を除いてほぼ一様に広がり、いつも同じように輝いています。一方で、強いX線を放射する天体の数は限られ、しかもその多くは激しく変動しています。図1に、 MAXIの最初の10ヶ月間の観測によって得られた、X線全天画像を示します。世界地図のように天球を平面に展開して表現したもので、世界地図の赤道に当たるのが銀河面(天の川)、図の中心が銀河系の中心の方向です。

図1
図1 MAXIの最初の10ヶ月の観測で得られたX線全天画像
銀河系の中心(いて座方向)付近と銀河面(天の川)に沿って明るいX線源(主に中性子星やブラックホールを含む連星)が多数分布し、日々変化している。色はX線スペクトルの「硬さ」を示す。弱いものまで含めると、約200個を超えるX線源が検出されている。


 なぜ、X線天体と可視光で見る恒星は、それほど違うのでしょうか。可視光で観測される星の大部分は、中心部の核融合反応で発生したエネルギーによって光っています。このような恒星では、もし中心で発生するエネルギーが通常より増えると星全体が膨れて中心部の温度が下がり核反応が抑制される、という負のフィードバックがかかるようになっています。そのため、星の一生の大部分の期間は極めて安定に光るのです。それに対して強いX線星の多くは、ブラックホールや中性子星のように極めてコンパクトな天体に周囲からガスが吸い込まれるときに解放される重力エネルギーが、X線放射のエネルギー源です。この過程では、普通の恒星のような安定化のメカニズムは働かず、周囲からのガスの供給の変化に応じてX線強度は変動します。

 さらに、ブラックホールなどのコンパクト天体に渦を巻いて落ち込むガスが形成する円盤(降着円盤)では、周囲からの物質流入がほぼ一定であっても、ブラックホールや中性子星へガスが吸い込まれる速さ(降着率)やX線放射の激しい変動が生じると考えられています。逆に、X線放射の変動やスペクトルを調べることによって、ブラックホールや中性子星の近傍でどのような現象が起きているか、また中心にいる天体はブラックホールなのか、もしブラックホールならその性質は、といった疑問に答えることが可能になります。

 ただし、この研究のためには、X線源が面白い活動をしているときを捉えなくてはなりません。これこそがMAXIの最も重要な使命です。今まで知られていなかった新しいX線源が出現したときはもちろんのこと、はくちょう座X-1のように既知のX線源が普段とは異なる振る舞いを見せ始めたときにも、警報を全世界に発し、「すざく」などの科学衛星や地上望遠鏡による精密観測を呼び掛けます。


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