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宇宙科学の最前線

46億年の太陽史 国立天文台 教授 宇宙科学研究所 客員教授 常田佐久

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太陽はいかにシェイプアップしたか

 太陽からは太陽風と呼ばれるプラズマの風が吹いている。現在の太陽風の持ち去る質量は、上記の減量に必要な量の300分の1〜1000分の1程度であり、質量損失をとうてい説明できない。太陽は、どうやってシェイプアップに成功したのだろうか? 残念ながら46億〜35億年前の太陽は簡単に観測できないので、代わりに太陽に似たタイプの若い星を観測して答えを探すことになる。

 宇宙には、それこそ星の数ほど星がある。太陽とスペクトルタイプが同じ若い星なら、太陽も若いときにその星と同じ振る舞いをしたに違いない。そのような若い星は、しばしば非常に速く自転している。太陽は約1ヶ月で1回転するが、幼年期の太陽は、数日で1回転していたと思われる。若い太陽は、X線や紫外線で現在よりはるかに明るく、まばゆいばかりに輝いていたに違いない。ハッブル宇宙望遠鏡による若い太陽型星の水素輝線(ライマンα線)の観測から、これらの星の質量損失が求められ、最大で現在の太陽の100倍程度の質量損失をしていることが分かっている。どうやら、Faint Young Sun paradoxの原因を太陽に求めることは、あながち荒唐無稽というわけでもないらしい。

 これらの観測から浮かび上がってくる幼年期の太陽の姿はどのようなものであろうか? 自転が速いとダイナモも活発で磁場を大量につくり出し、その結果、大フレア爆発やCME(磁場の不安定性によりコロナからバブルのように大量の質量と磁場が放出される現象)が、ほとんど常時(数分に1回)発生する状態となる。コロナの温度も今よりずっと高いし、太陽風も今よりずっと強力である。太陽が質量を失うと角運動量も同時に失うので、太陽の回転は急ブレーキをかけるように減速していく。減速により太陽のダイナモ活動は衰え、ゆっくりと現在の状態に落ち着いていく。太陽は活発な運動によって減量に成功し、壮年期を迎えているということができる。このような強力な太陽風やCMEにより、高速高温のプラズマが惑星表面に吹き付けることになる。また、惑星は、今よりはるかに強力な紫外線で照らされる。例えば、磁気圏がなく大気のない惑星の表面で、暴れる若い太陽の痕跡を見つけることはできないだろうか?

 さらに自転を速くしていくと、星が失う質量は逆に減少して、現在の太陽の10倍程度に制約されているらしいことも分かってきた。これを説明するために、太陽の回転が速すぎると、ダイナモエンジンが超活発になり、太陽の北極と南極を覆うような大黒点が発生する可能性が考えられている。北極と南極を結ぶ強い磁力線がふたの役割をして、かえって質量損失を抑えるのである。極に大黒点がある太陽の姿は、「ひので」の観測する今日の太陽とは似ても似つかないものであり、想像するだけでも楽しくなる。


太陽史から地球史を読み解く

 「ひので」の磁場に関する発見は、キーワードを並べても、極域の強磁場、短寿命水平磁場、磁気流体波動、対流崩壊、乱流、ユビキタスな磁気リコネクション……など多種多様であり、世界の研究者は毎週のように学術雑誌に現れる「ひので」の最新の成果に興奮する状態が続いている。若い太陽では、これらの素過程がより激しく大規模な形で起きていたに違いない。

 「ひので」とその後継衛星は、ダイナモ機構やコロナや彩層の活動の機構を解明することを主目的としている。一方、これら磁場の絡む現象の基礎的過程の理解が進めば、太陽活動の短期的・長期的予測が可能となり、地球環境問題、人々の安心と安全の確保にも貢献することができる。太陽のダイナモと磁場の起源に関する研究は、46億年の太陽史が生命の起源を含む地球で起きたさまざまな現象とどうかかわっているのかを解明していくに違いない。

(つねた・さく)



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