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宇宙科学の最前線

46億年の太陽史 国立天文台 教授 宇宙科学研究所 客員教授 常田佐久

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 太陽の話といえば、最新の太陽観測衛星「ひので」の観測成果の紹介となるが、『ISASニュース』でもすでに何回か取り上げられていることから、ここでは趣を変えて、少し長い時間スケールで太陽と地球環境との関係について考えてみたい。

太陽は異常な状態なのか?

 最近、「太陽に異変発生?」という新聞記事をよく見掛ける。NOAA(米国海洋大気庁)は当初、次の太陽活動のピークを2011年10月ごろと予測したが、現状を追認するかのように2013年5月に変更されている。通常11年程度である太陽周期が13年近くになっているのである。

 実際、「ひので」観測データを毎日眺めていると、太陽活動は従来になく低調であると感じる。ここで異常と思われる現象をまとめると、極小期の累積無黒点日数で見ると約100年前の極小期に近づく黒点数の少ない状況であること、太陽全体から来る総エネルギー量が過去2回の極小期に比べてわずかに減少していること、太陽の極域の磁場の強度が約半分程度しかなく太陽風構造が従来の極小期とは大幅に異なっていること、また宇宙空間から地球に降り注ぐ宇宙線量が45年の観測史上最も多いこと、などが挙げられる。地球は太陽の磁場の衣に守られているので、惑星間空間に伸びる太陽の極域からの磁場が弱くなると宇宙線の量が多くなる。

 さて、太陽は本当に異常な状態なのだろうか? そんなに遠くない昔の1645年から約70年間、太陽に黒点がほとんどない時期があり、そのころに地球は小氷河期であったことから、いろいろ想像をかき立てられる(図1)。実は、黒点やフレア爆発といった太陽の活動現象の源である磁場の生成機構(ダイナモと呼ばれる)が停止したように見える現象は、過去6000年に何度も発生している(図2)。さらに、そのような時期には、地球は少し寒かったらしい。驚くべきことに、黒点の消失が起きる少し前から太陽活動周期が延びており、13〜14年の周期になっていることが分かってきている。現在11年の太陽周期が延びており、太陽の活動が停滞期に入った(あるいは今までハイの状態だったのがノーマルに戻った)といわれる所以である。しかし、たとえ黒点が長期に見えなくなっても、天文学的には太陽が異常ということはまったくない。このような現象の電磁流体力学的原因は皆目分かっていないし、地球環境への影響も大いに関心事ではあるが、幸か不幸か、最新の「ひので」の観測によると太陽活動は少しずつ上向いてきており、少なくとも次の太陽極大期が来ないということはなさそうである。


図1
図1 過去400年の黒点数の推移
太線は平均した黒点数の変化。ウィキペディアより改変。

図2
図2 過去6000年の黒点数の変化と地球が寒冷だった時期(○印)
Usoskin, I.G., G.A. Kovaltsov, Cosmic rays and climate of Earth: Possible connection, Compt. Rend. Geosci., 340, 441-450, 2008より改編


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