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宇宙科学の最前線

ミクロの便利屋 宇宙探査工学研究系 助教 三田信

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小さいことは良いことだ

 携帯電話やゲーム機、携帯音楽プレーヤー……。小さな機器がもてはやされています。宇宙に目を向けると、やはり小さな衛星、小さな探査機がホットな分野の一つです。というのも、ロケットで打ち上げるとき、小さいものほど安く打ち上げることができ、一般的に小さいものは安くつくることができるからです。

 カンサットやキューブサットと呼ばれる小さな衛星の話題を聞くことも多いでしょう。こういったものは、安くつくって安く打ち上げることができるので、高専や大学の学生、中小企業の技術者などが自分たちで開発し、打ち上げてもらうことができるのです。

 さらに、小さく軽くつくることで、より遠くに飛ばすことができます。これは、ソフトボールのボールより野球のボールの方が遠くに投げられることと似ています。遠くの天体に衛星や探査機を送る場合も、やはり小さく軽くつくることがとても重要になります。


ただ小さくすればよいのか?

 では、何でもかんでも小さくすればよいのでしょうか? 小さくつくることで性能が悪くなってしまったらどうでしょう? 実はドラえもんの“スモールライト”を使ったようにただ小さくしたのでは、性能が落ちるばかりか、まったく動かなくなってしまいます。

 そこで、魚がひれを使って泳ぐのと微生物が鞭毛を使って動くのでは違いがあるように、ただ小さくするだけではなく、いろいろな工夫が必要になってきます。小さくなっても性能が落ちずにきちんと動作する、あるいは小さくつくることで今までにはできなかったことをできるようにする技術の一つに「MEMS」があります。


MEMSとは

 MEMSという言葉を聞いたことがあるでしょうか。「マイクロマシン」とも呼ばれているので、こちらの方がよく知られているかもしれません。たとえ聞いたことがなくても私たちの身の回りには、このMEMSやマイクロマシンと呼ばれるものがたくさんあります。

 例えば、携帯電話の傾きを検知する機能や、デジタルカメラの手ぶれや傾きを検知する機能は、このMEMSという技術によるものです。ほかにも、ゲーム機のコントローラや、インクジェットプリンタ、投射ディスプレイ、医療用機器、自動車などさまざまなものの中にMEMS技術が使われています。

 MEMSとは「Micro Electro Mechanical Systems」という英語の略で、「メムス」と発音します。小さな機械と電子回路が組み合わさったものを指します。

 この技術では、ICをつくるような半導体集積回路作製技術を応用して、とても小さな機械的部品を作製することができます。携帯電話、デジカメ、ゲーム機には、傾きや加速度を知ることができる「加速度センサ」や、傾きや動きを知ることができる「ジャイロ」が入っています。これらの部品を小指の先に載るぐらいに小さくした技術がMEMSです。MEMS技術は上で書いたように、いろいろなものに応用されており、「ミクロの便利屋」といったところでしょうか。


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