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宇宙科学の最前線

衛星構造の高精度化

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 指向管理は、ミッションの成否そのものにかかわる重要なシステム技術です。指向精度・姿勢精度というのはあいまいな用語で、指向制御精度、指向安定度、指向決定精度などを定義しなければ数値化できませんが、例えばSPICAでの一番厳しい要求は次のようになります。
 まず、目標の恒星に照準を合わせるため検知部の絶対指向制御精度は1秒角以内です。その恒星を隠してまわりの惑星を探して撮影するために、露光時間内に像が動かずボケない条件としての指向安定度が片振幅で1分間に0.03秒角以内です。1°が60分角なので、1秒角は1/3600°。これは、4km先の1円玉(視直径が2cm)を含む角度ということになります。どうやってこの小さな角度を計測するのかという素朴な疑問もありますが、そもそも機械式冷凍機が複数台動いている振動環境でどうやってこれらの指向精度を実現するのかという課題があります。
 一方、ASTRO-Gではやむを得ない擾乱環境にあるにもかかわらず、さらに自分自身で積極的に動いてしまいます。観測上必要な高速スイッチングマニューバといって、大型アンテナを衛星本体と一緒に15秒間で3°回転させ、30秒間計測のために静止して、また15秒かけて3°元に戻すという運動を、頻繁に繰り返します。大型アンテナは剛体ではないのでぶらぶら振動するおそれがありますが、これをピタリピタリと0.005°程度の姿勢角精度で決めてやらなければなりません。この現象は、自転車のハンドルにスイカをぶら下げて、スイカ(アンテナ)を揺らさずにS字カーブを走ることをイメージしてください。
 これらの動的問題を図示すると図4のようになります。図で中間振動数領域がASTRO-Gで述べた柔軟付属物と姿勢制御系との干渉領域、高振動数領域がSPICAで述べた擾乱問題の領域です。


図4
図4 軌道上の衛星の固有振動数と擾乱力との関係

おわりに

 衛星ミッションの高度(ハイテク)化に伴い、ローテクの代表である構造も精密機械と同じような役割を担わなければならなくなってきています。これらの課題をどのように解決していくかについては誌面の都合(言い訳には便利な言葉です)で書けませんでしたが、ともかく一筋縄では解決できないことばかりです(これらの課題を克服して打ち上げるのはもちろんのことです)。

(こまつ・けいじ)



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