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宇宙科学の最前線

小惑星イトカワを探る その後の進展

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 時間の過ぎるのは早いもので、「はやぶさ」が小惑星イトカワに到着してからすでに3年がたちました。この間、「はやぶさ」は、イトカワの観測、タッチダウンの挑戦、音信不通、復旧と、まさに“波瀾万丈”という言葉がぴったりな経過をたどってきています。そして現在(2008年9月)、「はやぶさ」は順調に運用されており、いよいよ2010年6月の地球帰還に向けた各種作業が本格化してきているところです。
 一方、「はやぶさ」が取得したデータの解析も着々と進んでいます。初期解析のときほどの強烈な驚きはないものの、ようやく取得データ全体が見渡せるようになり、イトカワに対する理解が深まってきました。ここでは、初期のデータ解析以降の進展について簡単に報告します。


可視画像の解析

 「はやぶさ」によるイトカワの観測で最も目立つ成果は、1500枚にも上る写真です。これはAMICAと呼ばれている可視光分光撮像カメラで撮影されたもので、可視光の7つの波長領域で撮像が行われました。異なる波長のデータを比較するためには、使われたフィルタの特性を正確に把握したり、装置内で発生してしまう余分な光(散乱光)を取り除いたりする必要があります。このような作業をキャリブレーション(較正)と呼びますが、非常に神経を使う作業です。この作業が石黒正晃氏・齋藤潤氏を中心に行われ、キャリブレーションされ整理された画像は1400枚ほどになりました。
 キャリブレーションされた画像を使って、イトカワ全面にわたるアルベド(albedo:反射率)の分布が分かりました。またその平均値は0.25±0.03になり、これは、地上からの観測で得られた値とほぼ一致することも確認されました。さらに、当初から分かっていたイトカワ表面の色の場所ごとの違いについてもより正確な解析がなされ、色の違いは宇宙風化と呼ばれる現象と密接に関係していることがはっきりしたのです。宇宙風化とは、太陽風や微小隕石が小天体の表面に衝突することで表面物質の見た目の色や明るさが変化する現象のことです。


近赤外線データの解析

 「はやぶさ」は、NIRSと呼ばれる近赤外線分光器も持っています。この装置を使うと波長が0.8〜2.1μmの近赤外線の波長ごとの強度の違い(スペクトル)を観測することができます。「はやぶさ」がイトカワ周辺にいたときに、8万以上のスペクトルデータが得られましたが、その解析は北里宏平氏・安部正真氏を中心に行われました。
 NIRSの場合にも波長ごとのキャリブレーションが重要ですが、さらにイトカワ表面のどの場所のスペクトルを撮影したのかも重要です。装置の視野角は0.1度四方で、これはイトカワ表面上の6mから90m四方の領域に対応することになります(タッチダウンのときを除く)。手間のかかる作業の結果、イトカワのほぼ全面にわたってデータが解析され、近赤外線でのアルベドの地図がつくられています。近赤外線のデータからは、表面の鉱物組成が推定できますが、イトカワ表面は地球に落ちてきている「普通コンドライト」と呼ばれる隕石の組成に近いことが確認されました。やはりイトカワは、隕石のふるさとの一つだったのです。



図1
図1 pバンド(960nm付近)とwバンド(700nm付近)の反射率の比を示した図
この図で、赤っぽい部分はpバンドの反射率が高く、青っぽい部分はwバンドの反射率が高いことを示す。いろいろな波長での光の強さを比較することで、表面物質が変性しているかどうかの手掛かりを得ることができる。


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