宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > 宇宙科学の最前線 > 低環境負荷の推進剤を開発する

宇宙科学の最前線

低環境負荷の推進剤を開発する

│2│


 私たちはGAPを用いたハイブリッドロケットの基礎研究を現在進めており、小型モータ(固体燃料を使用したロケット推進装置をモータと呼ぶ)を用いて推力200N級の試験を行っているところです。図2はGAPとガス酸素の組み合わせによるハイブリッドロケットの燃焼試験風景です。小さいモータですが、迫力満点です。すでにこのサイズのモータでは燃焼効率98%を達成しており、高性能を確認できています。また、GAPにある種のポリマーを少量混合することで燃焼速度を大きく低下させることが可能なことから、燃焼速度の異なるGAPを層状に配して推力変化をつくり出すことができます。またGAPは、わずかな酸化剤対燃料の比の差で、比推力がわりあい敏感に変化する特性を持っています。この特性を利用すれば、酸化剤噴射量で推力をコントロールすることも可能です。この二つを組み合わせれば広い範囲で推力を変化させることが可能となり、ロケットモータの設計自由度が大きく広がります。
 また、上述したポリマーの添加量を増大させれば、GAPは自分で燃えなくなります。その領域の組成を利用すれば、酸化剤を流して点火器で火を付けても、酸化剤を止めれば消炎し、また酸化剤を流して再点火することも可能になるなど、いろいろなオプションが考えられます。こういった特性を考えながら小型試験をしっかり行って、徐々にサイズアップ、最終的には飛翔型につなげていければ幸いです。
 ハイブリッドロケットという概念は昔からありました。「低環境負荷」以外にも「高性能」「安全」といったキーワードが挙げられてきましたが、固体ロケットを完全に凌駕する性能を持っているわけでもなく、昔は固体ロケットの代替に、という議論は熱くありませんでした。ところが、特に近年「安全」も重要視されるようになり、こういった事情から、このところハイブリッドロケットは世界的に再評価されています。我が国でもいろいろな切り口でハイブリッドロケットを研究するグループが、宇宙科学研究本部の嶋田 徹教授を代表として、JAXA・大学が中心となり形成されています。GAPを使ったハイブリッドロケットだけでなく、いろいろな研究が伸びていき、数年後にはこのグループが世界のハイブリッドロケットの研究を席巻すると期待しています。



図2
図2 GAP/酸素ハイブリッドロケット燃焼試験

塩化水素フリー・微粒子フリーを達成できる固体燃料

 次は(3)です。現在のところ塩化水素フリー、微粒子フリーを両立させる固体燃料は、簡単にはできません。まだまだ塩化水素フリーを達成できる新しい酸化剤が一人前になっていないからです。ただし、「上の方」をにらんだ微粒子フリーの燃料なら、GAPを使ってできそうです。現状の酸化剤・過塩素酸アンモニウムとGAPの組み合わせがその候補です。性能的にも今のアルミニウムの入った燃料とほぼ同等であり、少し専門的な話になりますが、燃えるときに振動しにくい上段用の球形モータなら何とか「震える」ことなく正常に燃えてくれる可能性があります。「球形モータ限定」と球数の少なさがネックとなりますが、デブリ対応のリリーフピッチャーとして注目を集めてもよい存在だと思います。


│2│