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宇宙科学の最前線

上手な衛星姿勢制御系の作り方「れいめい」衛星開発日記


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シミュレータを活用する衛星運用

 一度打ち上げてしまった人工衛星はもう直すことができないため,十分な地上試験は絶対に必要です。一方,複雑さを増しているソフトウェアについては,必ずしもいわゆる地上試験によるチェックだけでは十分ではない,とも感じています。
 というのも,さまざまな条件の組み合わせでソフトウェアの挙動は変わるからです。「れいめい」衛星の姿勢制御機能も,例えば地磁場の条件やオーロラ観測するタイミングなど,さまざまな条件に左右されます。このすべての組み合わせを,事前のいわゆる地上試験で網羅するのは,事実上不可能です。このような問題は最近では広く認識されており,例えばソフトウェアを自動的にチェックする研究なども行われています。しかし,このような手法を「れいめい」衛星に採用するのはまだ難しかったため,私たちは,衛星運用の前のチェックを重視するというアプローチを取りました。

 そのための道具は二つあります。一つは,パソコン上で実行されるシミュレーションソフトです。ここでは簡単に,これを「ソフトシミュレータ」と呼ぶことにします。搭載ソフトウェアに,センサなどの機器の動作,衛星の運動,地上から送信されるコマンド処理などを再現するプログラムを組み合わせたもので,軌道上での制御ソフトウェアの挙動をかなりの精度で再現できるものです。先に述べた地上試験用シミュレーションプログラムは,前節(2)でも触れた通り,実はこれを見越して開発してあったので,ほぼそのまま流用することができました。

 この「ソフトシミュレータ」では,実際の時間より高速な計算が可能で,例えば24時間分の衛星挙動を5分程度で計算することができます。このため,日々の運用計画立案の1ステップとして,このチェックが行われています(図2)。この一連の運用計画立案ソフトウェアは,学生が中心となり構築したものですが,いろいろな処理がなるべく自動的に行われるように工夫してあり,小規模な運用体制(1日当たり1〜2名程度)でも大きな負担にならないようになっています。



図2
図2 「れいめい」衛星の運用計画が作成される一連の流れ


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