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宇宙科学の最前線

雷放電観測の展開 対流圏から超高層大気,そして惑星へ

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惑星大気における雷放電研究

 地球における研究から,その重要性が示されてきた雷放電活動であるが,翻って惑星探査におけるメリットは何であろうか。実は,雷放電の存在が認められた,あるいは存在の可能性が指摘されている太陽系内の惑星・衛星は少なくない。木星,土星,天王星,海王星は,Voyagerなどの探査機に搭載された光学あるいは電波受信機によって,雷放電の明らかな兆候が確認されている。また,火星,金星,タイタンでも,放電現象の存在が期待されている。こうした惑星・衛星にもグローバルサーキットが存在するならば,エアロゾルや雲物理に影響を及ぼしているはずだと指摘する研究者はいる。また,木星のCH4,C2H4,金星のNO,天王星のCOは雷放電によって生成されているとする説がある。

 木星は,地球以外で唯一,雷放電発光の確実な証拠を持つ惑星である。Voyager 1号,2号に続き,Galileo探査機によって,夜間の激しい雷放電発光が撮像されている。1回の放電発光規模は地球の100〜1000倍と推定され,昼間の雲の観測と比較すると,地球と同様,雷放電は発達した積乱雲地域で起きているらしい(図2)。今年の9月にベルリンで開かれた第1回のヨーロッパ惑星科学会議(Europlanet congress)では,Mars Express,Venus Express,Cassini/Huygensの相次ぐ成功に沸くヨーロッパのあふれるばかりの熱気を感じたが,その中には「惑星雷放電」のセッションもあった。Cassiniの観測から,土星の雷放電は巨大白斑付近のみから,しかも地球の100〜1000倍という大規模なものだけが発生しているという興味深い報告があった。金星における雷放電の存在の有無は20年以上に及ぶ論争に決着がついていないが,Venus Expressの磁力計は雷起源の可能性が極めて高い変動を記録しており,決定的な光学観測が待たれるという状況である。


図2
図2 Galileo探査機が撮像した木星の積乱雲(左図の四角枠内)と,同領域での夜間雷画像(右図)
(NASAのHPより)


 日本は,金星探査プロジェクトPLANET-Cで雷放電発光の検出に最適化した雷・大気光カメラLAC(Lightning and Airglow Camera)を搭載し,長年の謎の解明に挑む。地球と違って,風の直接観測ができない,あるいは極めて限られた観測しかできない惑星にあって,雷放電発光・電波放射は対流活動を比較的忠実に反映する指標として,その価値は非常に高い。


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