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宇宙科学の最前線

「はるか」が生み出した次期スペースVLBIミッション「VSOP-2」

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 宇宙研の第25号科学衛星計画として,スペースVLBI科学ミッションのVSOP-2計画が選定されました。JAXAが発足してから選ばれた初めての宇宙研ミッションです。衛星名はASTRO-Gとして,2007年度にPM(Proto-model)スタート,2011年度打上げを目指して概算要求が行われています。VSOP-2が何を目指すのか,どのように進められるのか,そして現状をお伝えします。


「はるか」からVSOP-2計画へ

 電波天文衛星「はるか」は1997年に打ち上げられた史上初のスペースVLBI(Very Long Baseline Interferometry:超長基線干渉計)天文衛星でした。

 「はるか」は,軌道上で端から端まで10mの大型展開アンテナの展開をはじめとした工学実験を成功させ,0.4ミリ秒角という高解像度観測を達成しました。世界中の研究機関との密接な国際協力のもとに,VSOP(VLBI Space Observatory Programme)観測計画を実現しました。VSOP計画によって,活動銀河核のジェットの構造や運動,銀河中心核のブラックホールを取り巻くプラズマ円盤構造を,高い空間分解能とイメージング性能で明らかにし,さらには,これまで知られていなかった高輝度天体の存在を示すなどの科学的成果を挙げることができました。

 「はるか」プロジェクトがスタートしたのは1989年です。工学実験衛星としてスペースVLBIに必要な工学技術を実証し,国際スペースVLBI観測を実際に行うことを目指して,衛星名はMUSES-Bと名付けられました。MUSES-Bは宇宙で羽を広げて「はるか」となって,工学実験衛星の枠組みをはるかに超えて,多くの天文学的な成果を挙げることに成功したのです。

 国内外のVSOPグループは,「はるか」によって得られた知見をもとにして未知の領域の天文学を切り拓くため,より広範な科学コミュニティに呼びかけながら次期スペースVLBIワーキンググループを立ち上げました。それは,打上げ間もない「はるか」が宇宙―地上間で干渉実験に成功した1997年5月のことでした。ワーキンググループはこの10年近く,「はるか」を運用しながら,よりよき計画作りにも励んできました。



VSOP-2計画とは

 VSOP-2では,VSOP計画に比べて,より短い波長に観測帯域を移します。ほかのいかなるミッションも成し得なかった高空間分解能(最高40マイクロ秒)による天体現象の直接撮像による観測を特徴とします。これによって,活動銀河核などを理解する上で重要な要素である巨大ブラックホールや降着円盤,ジェット生成,加速の機構などを明らかにします。また,原始星磁気圏の構造などの研究分野にも観測分野を広げます。重要項目を挙げます(図1)。

 ●ジェットが生成,加速されている領域の解明
 ●活動銀河核のブラックホール周辺の降着円盤の構造
 ●水メーザーによる,系内星形成領域などの運動の解明
 ●系外銀河中の水メーザーの観測
 ●原始星の磁気圏の観測,など

 JAXAの「宇宙科学長期計画」の中では,天体物理学の極限状態の物理にかかわる領域に肉迫するものです。多くの銀河の中心に活動的な現象があること,それらが超大質量ブラックホールにかかわること,また,ブラックホール周辺の極限状態は多くの人の興味を引き付ける研究課題です。


図1
図1 VSOPがとらえたM87の電波像。8000光年の長さに伸びる鋭いジェットの根元が約10光年にわたって見えたが,VSOP-2ではブラックホールの数倍の解像度の映像をもたらす。



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