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宇宙科学の最前線

宇宙科学ビジョンにおける太陽系探査の役割 〜次期小天体探査への挑戦〜

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次期小天体探査の始動

 さて,90年代後半から私たちはMUSES-C計画の一環として,行きやすい小惑星を探す観測やミッション設計の改良を続けてきました。その後,全国200名以上の有志が参加した「小天体探査フォーラム(MEF)」を通じて,次期ミッション案を4年にわたって検討しました。そして今年3月の宇宙理学委員会で「小天体探査ワーキンググループ(WG)」の設立を申請し,認可していただきました。

 現在は,理工学の若手が作るコアメンバー会議を毎週開き,5月末の第1回WG全体会議と,重点開発項目ごとに分けた「探査機計測」「サンプラー改良・試料分析」「表面探査パッケージ」「ミッションデザイン」「航法・誘導制御」の5つのサブグループの始動に向けて準備中です。今後の詳細検討では,「はやぶさ」の設計・試験・運用で学んだ教訓を活かして,科学的意義と工学的実現性が共に高いミッション実現と,開発期間・コストの抑制につなげたいと思います。以下に,これまで検討された代表的な2案をご紹介します(詳細は以下を参照,http://www.asexploration.com/mef/mef_report/mef_report.html)。



●ミッション案1: スペクトル既知NEOマルチランデブー&サンプルリターン

 小惑星は反射スペクトル観測から,1ダースほどのスペクトル型に分けられています。現在の小惑星帯の一番内側にはS型やE,M,V型,次にC型,さらに外側にはP型,そして木星トロヤ群などにはD型が多く分布していることが統計的に明らかになっています(図4)。ここから,火星と木星の間では原始太陽系の形成後,半径方向に物質があまり混ぜられなかったことが予想されます。そこでこの案では,1〜2機の探査機を主要なスペクトル型に属する近地球型小惑星複数個にランデブーさせ,全球マッピングや表層・内部構造の調査後に,サンプルを地球に持ち帰ります。探査対象としては,S型は「はやぶさ」で訪問するので,S型に次いで多く,炭素質コンドライト隕石の母天体と目される未分化小惑星のC型,母天体内部の熱的分化を探るためのM型,E型,V型,そして生命前駆物質の宝庫と予想されるD,P型に注目しています。そして小惑星と隕石・宇宙塵の分類の対応付けを決着させ,原始太陽系における物質の空間分布に焼き直します。なお,複数の小惑星からサンプルを持ち帰るためのミッション設計には,ロケットの本数,探査機の台数,探査機1機が訪問する小惑星の数というパラメータの組み合わせを,理工学の要求・コスト・リスクなど,さまざまな面から評価しなくてはいけません。


図4
図4 小惑星帯では日心距離によって小惑星のスペクトル型ごとの存在率が大きく変化する。(図版:廣井より改変)


●ミッション案2: 「ファミリー」ミッション

 似た軌道要素を持つ小惑星帯天体の一群「族(ファミリー)」は,原始惑星が衝突破壊してできたと考えられています。この案では,同じファミリー内の複数の天体を訪問することで,母天体の内部構造,衝突破壊・再凝集の履歴,その物理・化学的素過程の解明を目指します。探査機は,(1)3大ファミリーの1つである「コロニス族」のS型小惑星に3〜6年間で3〜4個,または(2)同一族ながら多様なスペクトル型を持つために,2つの小惑星が最近衝突した現場ではないかといわれている「ナイサ・ポラーナ族」の中で,3年間で2個,スペクトル型が異なる小惑星に接近します。その後フライバイしながら,各天体表面へ自律航法型の子機を衝突させ,地下数mの深さから放出される破片を採集して,地球に持ち帰ります。これは次期小天体探査の3つのテーマのうち,特に小惑星の内部構造探査に挑むものですが,新しい開発要素がやや多いのが課題です。

(やの・はじめ)



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