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宇宙科学の最前線

宇宙科学ビジョンにおける太陽系探査の役割 〜次期小天体探査への挑戦〜

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21世紀の太陽系探査が挑むテーマ

 最初の質問に戻りましょう。「はやぶさ」の成果を踏まえた次世代探査は何を目指すべきか?

 まず,21世紀の宇宙科学すべてに共通した目標があるとすれば,それは「宇宙の始まりから私たち一人ひとりの人生に至るまでの,連続したストーリー」を紡ぎ出して,人類の世界観を刷新することだと思います。その中で惑星科学が果たす役割は,天文学と宇宙論が構築しつつある,「ユニバースが誕生から現在の構造を持つに至った歴史物語」と,地球科学が描き出しつつある「全地球史」の間を,(1)太陽系内のすべての天体の誕生と進化,(2)太陽系以外の多様な惑星系の形成,そして(3)生命前駆物質の化学進化,それぞれのシナリオに矛盾がないようにつなぎ合わせる法則を導き出すことでしょう。

 1990年代のNASAは,“Origin”というたった一つのキーワードを掲げて,宇宙,恒星,地球,生命それぞれの「起源」を探ることに観測・探査の目標を集約させました。原因と結果は自然法則の連鎖で結ばれていますから,「起源」という初期条件を明らかにするのと並行して,それぞれの時間・空間スケールでの「進化(Evolution)」のベクトルを支配する法則を見つけ出さなくてはいけません。私はこの「進化」こそ,JAXAのすべての宇宙ミッションを貫くキーワードになるのではないか,と思っています。JAXAの「太陽系科学探査の中長期的目標」は,(A)太陽系の起源・進化,(B)惑星の多様性,(C)生命の起源,(D)磁気圏の統一的理解,の4つです。(A)〜(C)は,原始太陽系の情報を保持している小天体の進化過程を解明することが鍵となります。その際,ガス雲の収縮,塵から天体への成長,微惑星の合体,内部の熱的分化に至るまで,原始太陽系の進化過程のどのイベントを調べるかによって,訪問すべき小天体を正しく選ばなくてはいけません(図2)。



図2
図2 原始太陽系の異なる場所でどんな進化段階を調べたいかで,探査すべき小天体は変わる。(図版:矢野・安部)


 以上から,「はやぶさ」に続く太陽系探査では,原始太陽系の異なる進化段階の痕跡をとどめる小天体を複数訪問して,それぞれの時間スケール・物質・構造・環境などの情報を明らかにしていくのが一つの道筋でしょう。具体的なテーマとしては,第一に,「はやぶさ」のようなサンプルリターンを主要スペクトル型の小惑星に少なくとも一例ずつ行い,隕石・宇宙塵のデータベースとの対応付けを,なるべく早く決着させること。第二に,太陽系の時間スケールで生命前駆物質の化学進化がどれほど進むかを調べること。第三には,未分化小惑星から月や固体惑星の大きさまで成長する過程での内部構造の進化を追うこと,だと考えます(図3)。日欧米では現在,1980年代の国際ハレー艦隊に続く,彗星・小惑星探査の「第二の黄金期」を迎えていますが,これら3つのテーマは,十年後も解決すべき目標として私たちの挑戦を待っているはずです。


図3
図3 独自に検討した小天体探査ロードマップ。破線のだ円は現行の日本のミッション, 白いだ円は将来ミッション案。帯は海外の探査機。( 図版:矢野・安部)


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