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宇宙科学の最前線

いま明かされるX線背景放射の起源

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最近の観測で,近傍に存在する銀河中心のほとんどに,太陽の100万から10億倍もの質量を持つ巨大ブラックホールが潜んでいることが分かってきた。例えば、われわれの天の川銀河にも、太陽の約400万倍の質量を持つブラックホールが存在する。これら巨大ブラックホール――まさに宇宙のモンスターと呼べるだろう――は一体どのようにして作られてきたのだろうか? これは、宇宙の銀河全体の進化を理解するために不可欠な、現代天文学に課せられた最も重要な課題の一つである。本記事では、この問題を直接的に制限した、X線背景放射の起源に関するわれわれの最新成果について解説する。さらに,これから示唆される巨大ブラックホール成長史の一部を紹介する。

巨大ブラックホールにガスが落ち込むと、その重力エネルギーが高い効率で放射に変換され中心が明るく輝く。これが活動銀河核(Active Galactic Nucleus:AGN)の正体である。放射されるエネルギーは莫大なもので、太陽光度の1000兆倍に至ることもある。ブラックホールはガスを吸い込むと、吸い込んだ分だけ質量が増える。モンスターは、いわば餌を食べることで太っていく。一度太ってしまったが最後、もうやせることはできない。餌を食べている最中のモンスターは、食べられる餌の発する悲鳴(=放射)によって明るく輝き、AGNとして観測される。モンスターは、食べる餌がなくなると、もはやAGNではなくなり、一見おとなしくなる(しかし成長したモンスターは、決していなくなるわけではなく、銀河の中心に息を潜めている)。つまりAGNとは、降着による巨大ブラックホール成長のプロセスである。よって、AGNの宇宙論的進化を知ることは、ブラックホール成長の様子を明かすことに直結する。

硬X線観測の意義

AGNを見つけるための最も完全かつ効率の良い方法は、透過力の強いエネルギーの高いX線(硬X線)で探すことである。AGNは強い硬X線を出すので、普通の銀河とは比較的簡単に区別できる。可視光では、星からの光が邪魔になるため、暗いAGNを見つけることは難しい。可視光やエネルギーの低いX線(軟X線)を使う最大の問題は、塵やガスに深く埋もれた「隠された」AGN――AGN全体から見て最も多い種族――に対して、ほとんど無力になってしまうことである。

以下に述べるように、宇宙全体に存在するAGNからのX線放射の重ね合わせは、「X線背景放射」として見えている。つまり、X線背景放射の起源を定量的に解明することは、AGNの宇宙論的進化を解明することである。AGNの統計的性質を記述する最も基本的な観測量が、AGNの空間数密度を光度の関数として表したもの、つまり「光度関数」である。赤方偏移パラメータごとに光度関数を知るためには、X線背景放射を個々のAGNに分解した上で、それを光学同定し,赤方偏移を一つずつ決めていくという大変なプロセスが必要となる。硬X線バンドでより感度の高い観測を行うことは、HEAO-1、「ぎんが」、「あすか」、Chandra、XMM-Newtonそして宇宙研が計画中のNeXTへと続く、X線天文学の発展の歴史そのものでもあった。AGN硬X線光度関数の宇宙論的進化の決定は、X線サーベイ天文学の目指してきたゴールの一つである。


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