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宇宙科学の最前線

ハイブリッドロケット CAMUI

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表紙
CAMUI型ハイブリッドロケット打上げ実証試験


●はじめに

 地上から打ち上げられるロケットの主な用途は,衛星を地球周回軌道に投入することであるが,それ以外に,50〜1000km程度の高度まで弾道飛行させ,高層気象観測や微小重力実験などの学術用途に用いることもよく行われる。このような用途に用いるロケットをサウンディングロケットという。

 地球温暖化が進行すると,成層圏オゾンの対流圏への降下量が増加し温暖化が加速することが化学・気候モデル実験によって明らかになる(Sudo K., Takahashi M., Akimoto H., Geophysical Research Letters, Vol. 30, pp. 24, 2003)など,近年,化学−気候相互作用に大きな関心が持たれている。成層圏大気成分を採取して地上の高性能な機器で分析し,微量化学成分の組成を明らかにする必要性が指摘されているが,高度50〜60kmの高層成層圏は航空機でも気球でも到達できないため,サウンディングロケットが唯一のサンプリング手段となる。また,分単位の微小重力環境を得られる実験手段としてもサウンディングロケットが用いられる。これは,小型ロケットにより機体を高度100〜200kmまで弾道飛行させることにより,微小重力環境を得るものである。

 ロケット実験の単価は数千万円の桁となるのが一般的である上,実験機会も限られている。国内でロケット実験の機会が限られている理由は需要の少なさにあり,少ない需要は高い実験単価に起因する。しかし,需要そのものは決して小さくはなく,もし安価に利用できるのであればロケット実験の利用を希望するという気象研究者や微小重力研究者は,地球温暖化,オゾン層生成・破壊,燃焼,結晶成長,生命科学の分野などに,広く存在する。これらは,ロケット実験単価を引き下げることにより顕在化する潜在需要である。

 ロケット実験の単価が高い理由は,小型ロケットの単価が高いことである。現在,ロケット実験で使用されている小型ロケットは,そのすべてが推進剤に火薬を使用する固体ロケットである。これは,構造が複雑で重いという液体ロケットの短所が,小型ロケットではより顕在化するためである。固体ロケットの構造は,基本的には筒に火薬を充填し,ノズルと尾翼を取り付けているだけなので,機体の材料も製造工程も高額なものではない。それにもかかわらず機体単価が高額になる理由は,推進剤に火薬類を使用するためである。固体ロケットの価格の大部分は火薬類の管理コストであり,もし推進剤に火薬類を使用しない小型ロケットを開発できれば,機体再使用化によりロケット実験の単価を飛躍的に削減し,潜在需要を顕在化させることができる。

 このような観点から,筆者らはハイブリッドロケットの研究開発を行っている。ハイブリッドロケットとは,推進剤に液体と固体の組み合わせを用いるロケットのことで,燃料側を固体とするのが一般的である。火薬類を使用しないために製造・運用コストを大幅に削減することが可能な上,液体燃料を使用しないため危険物すら取り扱わずに済む。ハイブリッドロケットのアイデアそのものは古く,1930年代までさかのぼることができる。しかし,固体燃料の燃焼が遅いという致命的な欠点を克服することができず,いまだに小型ロケット打上げへの適用例はない。地球の重力によって毎秒9.8m/sの速度を奪われる打上げ用途では,燃焼が遅いというのは致命的なのである。



●CAMUI型ハイブリッドロケット

 固体燃料の燃焼を速くし,ハイブリッドロケットを小型打上げロケットに適用するため,従来は中心にポートを設けた円柱状であった固体燃料を複数の円柱ブロックに分け,各円柱ブロックの前端面が同時並行的に燃焼する方式を考案した。縦列多段衝突噴流方式を英訳し,Cascaded Multistage Impinging-jetの頭文字を取ってCAMUIロケットと名付けた。

 CAMUIロケットの燃焼室の概念を図1に示す。燃焼室に噴射された液体酸化剤は初段燃料ブロックの前端面に衝突し,生成した燃焼ガスは初段ブロックの2つのポートを通って下流に流れ,2段目ブロックの前端面に衝突する。衝突噴流により固体燃料への熱伝達が促進される効果を狙ったわけである。CAMUI方式では,燃料ブロックを薄く細分化することにより,理論上はいくらでも推力密度(単位燃焼室容積当たりの推力)を上げることが可能であるが,燃料の機械的強度および圧力損失から上限は存在する。筆者らの経験では,少なくとも従来型の3倍程度の推力密度は容易に得ることが可能であり,ハイブリッドロケットを固体ロケットレベルまで小型・高推力化することが可能となった。


図1
図1 CAMUI型燃焼室の概要


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