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宇宙科学の最前線

銀河団の高温ガスから元素の合成史・星の形成史を読み解く

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表紙
XMM-Newton衛星で観測した乙女座銀河団中心部のX線画像


超新星爆発による元素合成

 私たちの体をつくっている元素や地球をつくっている元素はいったいどのようにして合成されたのか,ご存知だろうか? 酸素や鉄のような我々の身のまわりにある元素のほとんどは,超新星爆発によって合成され,宇宙空間にまき散らされたものである。超新星爆発とは,夜空に突然明るく輝く星であり,ある種の恒星が死ぬときの大爆発である。超新星爆発を起こす元の星の性質,つまり,重い恒星が寿命を迎えたときの大爆発なのか,軽い恒星の連星系があるときに起こす大爆発なのかにより,合成される元素の組成比が決まる。それゆえ,宇宙にどのような元素がどれだけ存在するのかが分かれば,今までにどのような超新星爆発がどれだけ起こったのか,つまり,どのような星がどれだけ生まれて死んでいったのかの手掛かりを得ることができる。

 我々は特に,銀河団や楕円銀河の重力によって閉じ込められた高温ガスに含まれる元素の量を調べることにより,元素の合成史とともに,さまざまな銀河を構成する星の形成史を調べようとしている。太陽のような恒星は,重力によりたくさん集まって銀河になる。我々が属する銀河は「銀河系」と呼ばれ,それを横から見たのが夜空を横切る天の川である。楕円銀河は,楕円形をした銀河の一種であり,我々の銀河系のような渦巻形をした銀河とは,形だけでなく,恒星の性質なども異なる。これらの銀河が数百個から数千個,重力によって集まった集団が銀河団である。

 この高温ガスの量は非常に多い。宇宙の物質の多くは,実は恒星ではなく,高温ガスなのである。例えば銀河団では,銀河と銀河の間を高温のガスが埋めつくしており,その質量は銀河の質量の数倍もある。ガスの温度は数百万度から1億度と,とんでもなく高い。楕円銀河では,質量は恒星の1%程度であるものの,数百万度のガスが存在している。楕円銀河の場合,このガスは恒星から出てきたものであり,恒星に含まれる元素の組成比と同じ組成比を持っている。従って,銀河の中で起こる超新星爆発によって合成された酸素や鉄の量を調べるためには,このようなガスに含まれる量を調べることが不可欠なのである。



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