宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > 宇宙科学の最前線 > 宇宙大航海時代への予感

宇宙科学の最前線

宇宙大航海時代への予感

│3│
 
μ20、そしてμ10HIspエンジンへ

さて、宇宙航行も彼らの航海に相通じるものがあります。宇宙船は宇宙の極低温や強烈な放射線に耐えられる強じんなシステムを備え、太陽と星の方角から自分の姿勢を知り、円盤を高速回転させ姿勢を保ち、通信電波の波数を数えて地球からの距離と方向を割り出し、風の代わりに光を集めます。これを電気に変え、または直接運動量に変換し推進力とします。
受ける光の量が宇宙航海の質を決める、と言っても過言ではありません。大きな推力を得るためにはたくさんの電力が必要です。そのためには、広い面積でたくさんの光を集めなければなりません。重いパネル構造が使えないほど大きな太陽電池ならば、薄い膜面を使いましょう。そう、まさに帆(セイル)のようです。発生した電力を推力に変換するのは電気推進です(私の専門分野ですから特に強調して書かせてください)。「はやぶさ」よりも迅速に往復ミッションを達成するとか複数の目的地を巡るなら、推力を大きくしましょう。μ10より大型で現在研究開発中のμ20が最適です。もっと遠くの深い宇宙航行となれば、推進剤消費を増やさないために、さらに速くて強いジェットが必要です。高い加速電圧でイオン噴射することになるでしょう。「はやぶさ」よりも2倍の推進剤を詰め込んで、3倍の噴射速度のμ10HIspエンジンを使えば、軌道変換能力は20km/sを超えます。これは打上げロケットの全体能力に匹敵します。これこそ「宇宙船」そのものです。
そしてそれを操作するのは、地球にいるわれわれ船員です。直接事故や病気で命を落とす心配はありませんが、慢性的人員不足と昼夜を問わない激務で生命の危険を感じる のは、大航海時代とさほど変わりません(help!)。

図3
図3 μイオンエンジンファミリー(μ10,μ20,μ10HIsp)と世界のイオンエンジンの推力と消費電力の分布。


図4
図4 小惑星探査機「はやぶさ」の深宇宙航行(想像図)


漆黒の大海原へ

宇宙大航海への技術はそろっています。科学探査という目的を達成するために、「宇宙船」を仕立てて漆黒の大海原へ乗り出そうではありませんか!
技術講演会、シンポジウム、μ20研究成果報告書、「はやぶさ」宇宙運用報告書、技術提案書、次期宇宙計画提案書、μ10HIsp研究計画書、次年度研究提案等々に加え、このISASニュースの原稿と、日々締め切りに追い立てられる今日このごろは、まさに新大陸への探検を憧憬(どうけい)し、スポンサー巡りに明け暮れたコロンブスの日々と重なるように思われてなりません。

(くになか・ひとし)
│3│