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宇宙科学の最前線

再び月を目指しませんか?

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月の天然基地,溶岩チューブ

 将来,月は探査の対象から,人類の活動の拠点へと変貌するであろう。問題は,月面という過酷な環境で人類が恒久的に活動をしていけるか,ということである。しかし,どうやら月には素晴らしい天然の基地候補が用意されているようである。それは,溶岩チューブと呼ばれる横穴である。溶岩チューブは,火山から噴出した溶岩が,穴を作って流れていくことによりできるもので,日本でも例えば富士山麓の青木ヶ原などに多数存在する。月面には,クレータが連なって存在している所がある(図3)。これは,この下にチューブが形成されているため,小さめの隕石でもチューブの天井が崩落する形でこのようなクレータ群が形成された,と考えれば説明がつく。月の溶岩チューブ内は,隕石や宇宙線から機器や人が守られるであろう。月の溶岩チューブには数百度も変動する昼夜の月表面の熱変動は到達せず,筆者や宮本氏(東大)らの検討結果では,チューブ内部は摂氏0度付近で安定していると考えられる。また,チューブの底は,あまり苦なく歩けるくらい滑らかである。しかも月のチューブは,大きいもので横幅数百m,高さ数十mにも及ぶと考えられている。これだけの安全で巨大な空間が,月には天然に用意されているのである。チューブの高さが数十mにも及ぶものであれば,SELENE搭載地形カメラで,その入り口が発見できる可能性がある。


図3
図3 月の溶岩チューブの候補。点状に連なっているクレータは,
溶岩チューブ(横穴)が地下に存在しているためかもしれない。


 図3に見られるような点状のクレータのつながりは,火星にもある(図4)。火星は,地下に水を有するといわれる。水がもし地下表層に存在するとすれば,こうしたチューブの中を流れるはずだ。チューブの中を流れては干上がることを繰り返している可能性がある。となると,こうしたチューブは,水が適度に供給され,かつ定常な温度を持つ放射線から守られた環境として,生命が誕生し得る適当な場所だったかもしれない。月は,大気も海洋や森林などもなく,溶岩チューブの広がりや形状を大局的に把握するのに非常によい。月において溶岩チューブを調べることで,固体惑星のチューブ形成による溶岩台地形成の研究,将来の火星のチューブ探査,そしてチューブ内の生命探査につながることになろう。


図4
図4 火星の溶岩チューブの候補。火星にも溶岩チューブが存在する可能性がある。


最後に

 本稿は誌面の関係もあって,かなり偏った月の探査に期待されることの紹介となった。SELENEでは,ここに述べきれなかったさまざまなデータが取得され,研究される。これらは,21世紀の月惑星科学の重要な基礎データとなるであろう。そして,SELENEデータは,月に再び人が訪れるための基礎データにもなる。

 皆さん,再び月を目指しませんか。

(はるやま・じゅんいち)


(本稿は, 春山純一,Viva Origino, Vol. 30, No. 3, p138-143, 2002に掲載した論文から,生命の起原および進化学会の許可を得て,抜粋加筆修正したものです。)


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