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宇宙科学の最前線

再び月を目指しませんか?

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表紙
SELENE飛翔図 ©筑波大学,JAXA
月面写真はNASA提供

はじめに

 自分が小さいころ,21世紀になったら,人は望めば,誰もがいつでも月へ行くことができる時代になっていると思っていた。月には恒久的な基地が作られ,月から宇宙の大海原を見つつ,人々はより深遠な宇宙の謎にチャレンジしていこうとしている,そんな時代になっていると思っていた。しかし,2004年の今,惑星はおろか,月にさえ人は再び訪れることができないでいる。

 こんな状況ではあるが,日本は着実に,再び月を目指している。それは,LUNAR-A(ISASニュース2002年8月号,田中氏の記事参照)であり,そして,筆者も参画しているSELENE(SELenological and ENgineering Explorer;月学と工学の探査機)である(表紙)。SELENEの目的は,月の起源と進化を解明するための科学データと,月から地球を含む宇宙の科学データを収集すること,そして,将来における月利用の可能性を探るためのデータを収集することである。SELENEは,H-IIAロケットにより打ち上げられる,アポロ以来となる本格的な2トンクラスの月極周回探査機である。15のミッション機器が搭載され,1年かけて,これまでに得られているデータをはるかにしのぐ良質のデータを月の全球について収集する。SELENEは今,2006年の打上げを目指して最後の追い込みに入っている。本稿では,月の探査で期待されることを,SELENEのデータでどうアプローチできるかを踏まえて述べてみたい。



月--固体惑星の謎を解く鍵--

 月は地球に最も近い天体である。しかしながら,地球には大気があり,海洋があり,そして生命に満ちあふれている。一方,月はすでに内部の活動を終え,クレータに覆われた「死んだ」星である。なぜ,このような違いが生じているのか。地球を知るという意味でも,月の起源と進化を探ることは必須である。

 SELENEでは,例えば月の内部進化の最終過程を知り,固体惑星の進化を知る手掛かりを得よう。月は,おおよそ30億年前に内部活動をほぼ終えたが,その後も多少は噴火活動があったようだ。しかし,30億年前から現在に至る「若い」地域は,月進化の最終段階の噴出であるため,噴出量は少なく,従って領域も狭い。狭い領域では,クレータの個数密度によりその地域の形成年代を推定する手法が使えない。そこで使うのが,クレータがどの程度崩壊しているかを調べることで年代を推定する方法である。月面に形成されたクレータは,微小な隕石により徐々に崩壊していく。このことを基礎に直径数百mのクレータの崩壊度を調べると,30億年前から現在までのいつごろできたかが推定でき,またその地域の形成年代も推定できる。

 これまでに得られている月表面の画像の解像度は,赤道域東半分の20%程度が10m以下であるものの,ほとんどはせいぜい数百mである。SELENEには,水平分解能10mの高解像度ステレオ視用カメラ「地形カメラ」が搭載される(図1)。地形カメラによって「若い」地域が探し出されよう。それらの地域について,SELENEに搭載されるマルチバンドイメージャ(可視域5バンド〔水平分解能20m〕,近赤外領域4バンド〔水平分解能60m〕のカメラ,図1)やスペクトルプロファイラ(数nmの波長分解能を持つ連続分光器)などにより,どんな物質がどのように存在しているかを調べることで,月の内部活動の終焉期における物質分化の様子が解明されるだろう。これらの研究結果は,ひいては地球を含む固体惑星の熱史の解明に寄与しよう。



図1
図1 SELENEに搭載される地形カメラとマルチバンドイメージャ。
高解像度撮像で月の地形,地質のデータを収集する。


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