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科学衛星

5.衛星製作

設計から製作に至る「あすか」開発の経過は、次の表に示してあります。

衛星製作の主要なイベントは以上ですが、この期間の苦労の例として、伸展型オプティカル・ベンチ(EOB)の開発について見てみましょう。

X線は極端に短い波長の電磁波です。したがってX線が表面に非常に浅い角度で進入した時だけ全反射が起きます。入射X線の角度が浅いので、X線望遠鏡のX線を集める面積を広くとるためには、長い焦点距離を必要とします。ASTRO-Dに搭載するX線望遠鏡では、焦点距離を3.5mにとりました。しかし打上げロケットのM-3SIIロケットのノーズフェアリングでは、3.5mもの長さのオプティカル・ベンチを収容できません。そこで、打上げの時は畳んでおき、軌道上で進展するタイプのEOBを採用しました。

そこで宇宙科学研究所側の理学・工学のスタッフと製造メーカー側のエンジニアからなる作業チームが組織され、オプティカル・ベンチの基本的骨組みと伸展機構の設計が1987年に開始されました。軌道上の温度変化にも拘らず必要な精度を保つために、EOBはCFRPのチューブからなるトラス構造にすることが決められました。EOBは可動部と固定部に分けられます。可動部は、軌道上でスライド式に伸ばされ、ラッチをかけて焦点距離が精確に3.5mになるようにしなければなりません。その年のうちに最初のエンジニアリング・モデルが作られ、基本コンセプトが検証されました。

エンジニアリング・モデルにつづいて、1988〜89年にPMが製作されました。この段階で、EOBの設計会議に衛星のシステムと構造を担当するエンジニアにも入ってもらって、EOBと衛星とのインターフェースについて、細心で徹底した議論を行いました。1990年のはじめ、EOBのPMについて振動試験が行われました。長期にわたる念入りな準備にも拘らず、このテストによってEOBの一部がねじれてしまいました。それは、その部分の機械的強度が不足しているだけだということが分かったので、すぐに補強されました。次にEOBのPMを衛星の構体モデルに組み込んで振動試験を実施しました。この構体モデルに若干の手を加えたものが、熱モデルとして使用されました。そして宇宙科学研究所のスペースチャンバーで、熱真空試験が行われ、熱設計の正しさが確かめられました。

EOBのFMが作られたのは1990〜1991年です。このEOBは衛星のFMに1991年10月に組み込まれ、伸展テストが行われました。しかしクランプ機構がうまく外れませんでした。EOBの可動部は打上げ時に振動を受けている間は固定部にしっかりと止めておかなければなりません。その止める役割を果たすのがこのクランプ機構です。しかしこれは軌道でEOBを伸展する直前に外れてくれなければなりません。そこでクランプ機構が修理されました。伸展テストでも、また宇宙環境を模した熱真空試験においても、他には問題が起きませんでした。

こうした長い努力のかいあって、打上げの10日後、1993年3月2日、EOBは目標の3.5mの焦点距離まで見事に伸展しました。